TOP > KANSAI DX AWARD > 金賞(大企業部門) 関西電力株式会社
金賞(大企業部門)関西電力株式会社
~生成AIで切り拓く
AI産業革命を見据えたDXビジョンの実現~
関西電力株式会社は、1951年創立、関西を中心に電力・ガス・情報通信・不動産など多岐にわたる事業を展開する総合エネルギー企業です。全社的なDXと生成AI活用の取り組みが評価され、KANSAI DX AWARD 2025 金賞(大企業部門)を受賞しました。電力自由化や脱炭素化、人口減少など、事業を取り巻く環境が変わっていく中、AIを前提とした業務改革や組織風土改革を推進。法人営業部門での新たな価値創出と火力部門での生産性向上を両立させ、持続可能な社会への貢献と圧倒的競争優位の確立をめざしています。今回は、こうした取り組みの背景や今後のビジョンについて、上田晃穂理事・IT戦略室長に伺いました。
─貴社がDXに取り組むことになった背景を教えてください。
当社では、エネルギー業界を取り巻く構造変化として「脱炭素化」「分散化」「自由化」「人口減少」「デジタル化」の5つのDを認識していました。電力自由化による競争激化や労働人口の縮小、複雑化するサプライチェーンの中で、限られた人員で高品質かつ効率的な業務を維持しつつ、多様な事業を展開し、ゼロカーボン社会への貢献を同時に実現する必要がありました。
当社は2018年にDX戦略委員会を設置し、デジタル専門子会社「K4 Digital」を立ち上げ、AIを活用した全社DXを推進してきました。さらに2022年のChatGPT登場を契機に、2030年頃の「AI産業革命」到来を想定し、2024年には「AIファースト企業」への転換を掲げました。
─従来の体制から大きく変革することが必要だったのですね。
従来、当社は42.195kmのフルマラソンを完走するような計画重視型の経営スタイルでした。しかし、AIファースト企業をめざすことで、100mを422本連続でダッシュするようなアジャイル型に転換し、VUCA時代の不確実性にも柔軟に対応できる組織運営をめざしました。この転換の背景には、単なる技術導入ではなく、AIを前提に業務を再設計し、圧倒的な競争優位を確立したいという企業としての強い意志があります。
─DXを進めるうえで、特に苦労された点は何でしょうか?
AIを全社に展開するにあたり、最大の課題は「人と風土の変革」でした。従来の成功体験や固定観念から生まれる変化への抵抗、特に安全・安定を最優先する電力事業の文化では、「前例のないことへの挑戦」がリスクと見られやすく、導入当初は社内の心理的障壁が高かったのです。また、ガバナンス未整備や社員間のAIリテラシーの差も課題でした。
─それらの課題をどのように乗り越えられたのでしょうか?
これらの課題を克服するために、当社では「人財・体制」「データ」「AIガバナンス・セキュリティ」「組織風土」という4つの基盤を総合的に整備しました。
まず、「組織風土」面では、トップダウンとボトムアップの両面から戦略的に取り組みました。トップダウンでは、経営層がDXビジョンと生成AI活用の重要性を明確に示し、全社員にChatGPT Enterpriseを配布。研修も実施し、「まず使ってみる」という文化を浸透させました。一方、ボトムアップでは、若手主導の有志コミュニティを支援し、「DXな人たち」の表彰制度を設けることで、挑戦と失敗を歓迎する風土を作りました。心理的安全性を高めることで、社員が「気づく・言える・行動する」状態となり、トップダウンの方向性と現場の主体性がかみ合うことで、業務・技術・人・文化が一体となった変革サイクルが生まれました。
「体制」面では、DX戦略委員会・各部門・K4 Digitalの三位一体で推進し、戦略策定から課題解決・技術支援まで連携しています。「人財」面では、IPAのデジタルスキル標準をアレンジした人財像を設定し、全社員がデジタルを武器として使いこなせるよう、研修体系を整備しました。
「データ」面では、データマネジメント体制を確立し、データの収集・加工・蓄積・利活用・廃棄のサイクルを運用しています。
「AIガバナンス・セキュリティ」面では、業務フローに対応した4種類の社内ルールを策定し、生成AIの安全かつ着実な全社導入を推進。また、セキュリティを「ブレーキではなくガードレール」と捉え、DXや事業を止めずに加速させる仕組みを構築しました。
このように4つの基盤を整備することで、全社員が安心してDXに挑戦できる環境を実現し、課題を着実に克服することができました。

─貴社が取り組まれているDXの具体的な内容を教えてください。
火力部門では、生成AIによる「過去トラブル・設備知識の要約」や「業務手順アドバイザ」を導入し、ベテランの知見を継承しながら現場作業の効率化を実現しています。また、法令チェック支援システムにより、膨大な確認作業を自動化し、法令違反リスクを低減しています。
法人営業部門では、収益拡大と生産性向上の両立という経営課題に対応するため、リード創出からクロージングまで営業プロセス全体に生成AI・数値AIを活用し、利益向上と業務効率化を同時に追求しています。
社内のIT問い合わせ対応でも、ヘルプデスク向けポータルに生成AIを活用。FAQの自動要約・回答生成により問い合わせ対応工数を削減し、現在は経理・調達・人事など管理間接部門への展開を進めています。
さらに全社向けの取り組みとして、繰り返しにはなりますが、ChatGPT Enterpriseを全社員8,300名に配布しました。トレーニングやワークショップを通じて活用スキルを強化し、全社員が生成AIを武器として成果につなげる「AIの民主化」を推進しています。
─それらの取り組みの成果について教えてください。
法人営業部門は営業プロセス全体にAIを導入し、提案力強化や準備工数削減で毎年数十億円規模の効果を見込んでいます。IT部門のヘルプデスク自動化でも毎年数億円の効率化を期待し、経理・調達・人事などへの横展開を進めています。2024年度までのPoCは610件、実用化は473件。2025年度末までに1,600億円超の投資を見込み、今年度のDX効果は293億円、IRR 8.3%と順調な成果を上げています。

─KANSAI DX AWARD受賞後の社内外の反響について教えてください。
社内ポータルでは多くの反響が寄せられ、生成AI活用への関心が一段と高まりました。社外からも「関西電力の推進事例を参考にしたい」「情報交換の機会を持ちたい」といったお問い合わせが多数あり、業界を問わず他企業にもポジティブな刺激を与えていると感じています。
─今後のビジョンや計画について教えてください。
2025年10月から全社員にChatGPT Enterpriseを配布し、生成AIのユースケースを募集したところ、全社で554件も集まりました。今後は優先順位を付けて計画的に実装するとともに、投資案件や経営判断を支援するAIエージェントを活用し、意思決定のスピードと精度を高めます。当社は、提供価値を機能面だけでなく情緒的・社会的価値まで広げ、会社やグループの枠を超えて業界や社会全体に影響を拡大。「AIファースト企業」として圧倒的競争優位と持続的成長、持続可能な社会の実現に挑戦し続けます。
─DXを進める上で大切にしていることは何でしょうか?
当社では、挑戦する組織風土を戦略的に構築しています。経営学者ジョン・P・コッターの「変革の8つのアクセラレータ」を参考に、トップダウンとボトムアップの両面から施策を実施。全社員が生成AIを武器として活用する「AIの民主化」を推進し、「経営・業務課題 × AI活用 ⇒ 成果」の取り組みを加速させています。

─最後に、これからDXを推進される企業の皆さまへのメッセージをお願いします。
DXは「完璧な計画を立ててから始めるもの」ではなく、「まず一歩踏み出すこと」から始まります。生成AIの登場により、私たちはこれまで以上にスピードと柔軟さが求められる時代に入りました。しかし、AIを導入するだけで自動的に事業や組織が変わるわけではありません。重要なのは、「AIを活かしてどんなワクワクする未来を実現し、何を成し遂げたいのか」という明確な意志です。関西電力のDXも最初から順調ではなく、多くの試行錯誤を経てようやく成果につながる道が見えてきました。VUCA時代の今こそ、「まずやってみる、その後考える」という姿勢が不可欠だと考えています。










