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金賞(大企業部門)日本新薬株式会社
現場から広がる共創のかたち
日本新薬株式会社は、1919年創業、京都市に本社を構える医薬品・機能食品メーカーであり、100年以上にわたり「人々の健康と豊かな生活創りに貢献する」という理念のもと事業を推進しています。DX統括部を中心に、社員一人ひとりが主体的に変革を起こす企業風土の醸成を目指す取り組みが評価され、KANSAI DX AWARD 2025 金賞(大企業部門)を受賞しました。今回は、同社のDX推進のきっかけや取り組み、成果、今後の展望について、DX統括部 DX推進部 DX企画推進課 占部千晶専任課長に伺いました。
─貴社がDXに取り組むことになった背景を教えてください。
製薬業界には規制の厳しさや業務の継承といった構造的な課題があります。特に新薬創出のハードルは年々高まっており、従来の業務プロセスだけでは対応が難しくなっていました。こうした状況を打破するために、デジタル技術やITを活用した業務変革が不可欠だと考え、2019年からRPAやAI翻訳の導入を始め、2022年度には全社的なDX推進を担う「DX統括部」を新設しました。
─全社的に推進されたというお話ですが、特に重視されたポイントはどのような点でしょうか?
私たちが最も重視したのは現場部門の主体的な参画です。DXはIT部門だけで推進するものではなく、現場が主体となって業務変革を起こすことが成功の鍵です。具体的には、現場担当者が自ら課題を発見し、RPAやAIツール、アプリ開発などに取り組むことのできる環境整備を進めてきました。
─DXを推進するにあたり、どのような思いがありましたか?
「DXはIT部門だけのものではなく、全社員が主体的に取り組むべきもの」という信念があります。そのため、昇格要件にDXリテラシーを組み込み、人事制度と連動させて、社員の意欲と成長を支える仕組みを整えています。また、DXは競争ではなく“共創”だと考え、同業他社や地域企業、教育機関との連携も積極的に進めています。個人としては、DXは単なる効率化ではなく、社員一人ひとりが成長し、「価値創出とは何か」を自分事として考える機会だと感じています。
─DXを進めるうえで、特に苦労された点は何でしょうか?
DX推進にあたって最大の課題は、「現場の意識改革」と「自律的な取り組みの定着」でした。製薬業界は専門性が高く、従来の業務プロセスが根強く残っており、一部では「DX=IT部門の仕事」という認識がありました。このため、現場が主体的に関わる風土を醸成することが大きな挑戦でした。

─その課題をどのように乗り越えられたのでしょうか?
当社では、「全員が取り組むDX」という方針のもと、現場部門の前向きな参画を促す施策を多面的に展開しました。
まず、DX統括部が業務部門と密に連携し、トップダウンとボトムアップの両面から推進体制を構築し、DXの重要性を全社的に共有しました。また、社員の意識や風土の改革を促すために「DX Action Book」を策定、昇格要件にDXリテラシーを組み込む等、制度面や教育面からも取り組みを後押し、DXリテラシーの向上が個人の成長とキャリアに直結する仕組みを整えました。
このように、制度・教育・風土の三位一体で取り組むことで、社内の理解と協力を得ながら、DX推進を着実に進めてきました。

─貴社が取り組まれているDXの具体的な内容を教えてください。
2021年に掲げたデジタルビジョン「Digital for Smiles」を軸に、全社DXの取り組みを推進しています。社員の主体性を尊重しながら、企業としての持続的な成長と社会への価値提供を両立するDXを推進しています。

1点目は、前向きに取り組む風土の醸成です。「DX Action Book」の全社浸透に加え、生成AIやPythonを活用した業務アプリの開発支援、社内の成功事例の共有などを通じ、全社を挙げてDXに取り組む風土を大切にしています。
2点目は、人財育成です。スキルレベルの定義やオープンバッジによる可視化、昇格試験の受験要件にDXリテラシー標準を組み込み、人事制度と連携。スキマ時間で学べる教育プログラムの提供などにより、社員が自律的に学べる仕組みを整備しています。
3点目は、IT・データ利活用環境の整備です。RPA、BI、生成AIなどを誰もが使いやすい環境を整備し、相談窓口やポータルサイトを設ける等、ユーザーフレンドリーな環境を構築しました。
4点目は、社外との共創・連携です。京都の地場企業、教育機関、自治体と連携して「Digital縁日」開催し、DX人財育成や新たな価値創出の推進に繋げています。また地域企業が最新技術に触れ、実践を通じて学び合える場を提供することで、企業間のつながり拡大、地域のDXの加速を目指しています。
─それらの取り組みの成果について教えてください。
成果として、2024年度には約4,000時間(2019年以降、累計約11万時間)の業務時間削減を達成しました。創薬研究所ではPythonと生成AIを活用したアプリにより、従来5日かかっていたデータ解析業務がわずか1分で完了するなど、現場主導での実用的成果も生まれました。
DXスキルの可視化により、2025年6月時点で社員の50%が基礎的DXリテラシーを習得しており、全社的なスキル底上げが進んでいます。また、DX相談窓口の相談件数は前年の約4倍に増加する等、「DXは身近で実現可能なもの」という認識が社内に浸透しました。DX推進は業務効率化にとどまらず、社員の意識改革や学習風土の醸成にもつながる成果を生み出しています。
─KANSAI DX AWARD受賞後の社内外の反響について教えてください。
社内では「自分たちの取り組みが社会的に評価された」という実感が広がり、社員のモチベーションが大きく向上しました。業務改善に取り組んでいた社員からも「自分の仕事が会社の変革に貢献していると実感できた」といった声が多く寄せられています。社外からも「製薬業界でここまで現場主導のDXを進めているのは珍しい」「人財育成と業務改善を両立している点が素晴らしい」とご評価をいただきました。
このように、受賞は単なる表彰にとどまらず、社内の意識改革と社外からの信頼獲得の両面で、企業レピュテーションの向上に大きな効果をもたらしました。
─今後のビジョンや計画について教えてください。
当社は2035年の長期ビジョンとして、「京都発のグローバルヘルスケアカンパニーとして、一人ひとりの新しい生き方を世界に届ける会社」を掲げています。その実現に向け、AI・デジタル技術を活用した業務変革をさらに推進し、創薬力の強化やグローバル展開を加速していきます。また、社員一人ひとりが変革人財として活躍できるよう、教育・制度・風土を整え、挑戦が生まれ続ける組織づくりを取り組んでいきます。

─最後に、これからDXを推進される企業の皆さまへ、伝えたいメッセージをお願いします。
取り組みを通じて感じたのは、「DXは技術の導入ではなく、企業風土の変革である」ということです。社員一人ひとりが課題を自分ごととして捉え、主体的に行動することで実現します。また、DXは、業務を楽にするだけでなく、社員の成長ややりがいにもつながる「人を活かす」取り組みでもあると実感しています。
そして、競争ではなく「共創」することを忘れず、他社や地域との連携を通じて、より豊かな社会をともに築いていけることを願っています。










