金賞(中堅・中小企業部門)株式会社モリエン

現場と育てるDX
モリエンの塗装業界改革

株式会社モリエンは、1919年創業、神戸市に本社を置く、塗料・塗装副資材の販売を行う企業です。顧客向け受発注アプリ「Morienペイントアシスト」を軸としたデジタル改革が評価され、KANSAI DX AWARD 2025 金賞(中堅・中小企業部門)を受賞しました。アナログ文化が根強く残る業界において、お客様の声を反映したアプリ改善の高速サイクルと、社員による丁寧な伴走支援により、業務効率化と顧客価値向上を同時に実現しました。今回は、こうした取り組みの背景や成果、今後のビジョンについて、森一郎代表取締役に伺いました。

─貴社がDXに取り組むことになった背景を教えてください。

業界ではITの普及により、WEBやアプリでメーカー情報を直接得られるようになり、塗料販売店が担ってきた「情報提供・技術支援」という役割が弱まる危機感が高まりました。加えて、人手不足やサプライチェーンの複雑化、顧客の情報収集のデジタル化が進み、従来のやり方では対応しきれない状況になっていました。社内でも電話・FAX・手書き伝票といったアナログ作業が多く、ミスや手戻りが発生し、対応に追われて本来の顧客支援に時間を割けない課題を抱えていました。こうした業界全体の変化と現場課題の両方を解決するため、DX推進に踏み切りました。

─DXに取り組むうえで、社長ご自身の思いとして強かったものは何でしょうか?

営業担当だった頃、営業時間外にも問い合わせが続き、お客様が現場作業後に遅くまで見積り・手配をしている状況を見て、「サポートしてお役に立ちたい」という思いを強く持ちました。アプリで業務を効率化できれば、社員も無理なく働けて、お客様にもより役立てる。その「両方を満たす仕組みを実現したい」という気持ちがDXの原動力でした。

─DXを進めるうえで、特に苦労された点は何でしょうか?

大きく分けて課題が4点ありました。 1点目は、お客様向け受発注アプリ「Morienペイントアシスト」の導入そのものの難しさです。いきなり全社展開するのではなく、スモールスタートで改善を重ねる必要がありました。
2点目は、塗料の種類や色数が膨大なため、「直感的に使える検索画面の設計」に苦労したことです。色の選びやすさひとつで発注結果が変わるため、UI/UX設計に多大な労力をかけました。都度先行ユーザーの声を取り入れ、10回以上改修しました。
3点目は、顧客の多くが電話中心の“アナログ慣れ”をしており、アプリ導入への心理的ハードルが高かった点です。
4点目は、社内のDXリテラシーのばらつきです。基本的なIT知識が不足している社員もおり、機器の操作などで想定外のトラブルが発生することもありました。

─その課題をどのように乗り越え、現場や社内の理解を得ていきましたか?

乗り越え方は、「顧客密着の改善サイクル」「全社的な人材育成」の二軸で進めました。まず顧客面では、少数の先行導入でアプリを実際に使っていただき、得られた声を月2回の改善会議で即時に開発へ反映。さらに、社員が現場でお客様の端末を一緒に操作しながら説明する“伴走型サポート”を徹底し、デジタルへの抵抗感を丁寧に解消していきました。一方、社内面ではITリテラシー向上に本気で取り組み、ITテスト(年2回)を必須化して合格をボーナス支給条件とするなど、行動変容につながる仕組みを導入。生成AI活用事例発表会(年2回)やITチームによる全社勉強会(半年で6回)も継続し、DXを「一部の担当だけがやるもの」にしない体制を整備しました。加えて、部門長会議で社長が最新方針を共有し続けることで、トップダウンと現場の意識を揃えることを意識しました。時間はかかりましたが、「業務が楽になる」という実体験が広がったことで、自然と利用が拡大。スモールスタートで失敗コストを抑え、成功体験を積み重ねていったことが最も大きなポイントだったと感じています。

─貴社が取り組まれているDXの具体的な内容を教えてください。

DXは「顧客向けサービスの高度化」「社内業務の効率化」を軸に進めています。顧客向けには受発注アプリ「Morienペイントアシスト」を開発し、商品情報の確認・正確な発注・現場写真の登録・履歴照会を現場で完結できるようにしました。改善はユーザーの声をもとに継続しており、現在は生成AIによる自然言語検索・発注の実装にも取り組んでいます。社内では業務アプリ「モリエンナビ」を導入し、社外からでも顧客・商品情報の参照、伝票発行、在庫発注、訪問登録が可能に。加えて、Looker Studioによるデータの「見える化」やRPA導入による事務作業の自動化にも着手し、全社での効率化を進めています。

─それらの取り組みの成果について教えてください。

顧客側の利便性が大幅に向上し、アプリ経由のオーダー数は増加しました。(※)対応企業数も 659社(2023年7月)→ 697社(2024年7月)→ 740社(2025年6月)へ増加し、現場作業の生産性向上が当社へのロイヤリティ向上につながっています。社内では伝票起票時間が5分から1分に短縮され、電話注文時に発生していた色番号間違いは0になりました。業務効率化により土曜の営業人数削減や新規顧客の獲得にもつながり、2024年の一人当たり利益は2010年比で約170%にまで向上しています。
(※)66件(2022年7月~2023年7月)→ 180件(2023年7月~24年7月) → 747件(2024年7月~2025年6月)

─KANSAI DX AWARD受賞後の社内外の反響について教えてください。

受賞は社内にとって大きな転機になりました。応募・審査の過程でDXの進捗と課題を整理でき、今後どうDXを進めていくかを改めて考えるきっかけになりました。

─今後のビジョンや計画について教えてください。

モリエンのDXはまだ道半ばですが、「Morienペイントアシスト」を中核に、塗装業界全体のデジタル変革に貢献するプラットフォーム構築をめざしています。まずはアプリの利用拡大と基盤強化を進め、700社を超えるお客様の声を反映した改善と機能拡張をスピーディーに継続。社内アプリによる試験運用やITリテラシー向上にも取り組んでいきます。次の段階では生成AIを活用し、自然言語での問い合わせ・仕様提案・履歴分析に基づく“おすすめ塗料”の自動提示など、より高度な顧客接点を実現していきます。最終的には、塗装店の業務全般を支援できるデジタルプラットフォームへと進化させ、「顧客接点の高度化」「業務効率の最大化」「データ価値の創出」を同時に実現することがビジョンです。
その根底にあるのは、DXを“技術導入”ではなく「お客様が便利になり、仕事がしやすくなる」ことに結びつけるという姿勢であり、小さな改善を積み重ねて現場に寄り添い続けるという考え方です。社員のやりがいとお客様への価値提供が循環する形でDXを進めていきたいと考えています。

─最後に、これからDXを推進される企業の皆さまへのメッセージをお願いします。

仕事の進め方を変えることに不安や抵抗があるのは当然ですが、「残業を減らしたい」「もっとお客様の役に立ちたい」といった想いを叶えるうえでDXは大きな助けになります。成功の鍵は、いきなり大規模なシステムを導入するのではなく、まずは小さく始めて効果を確かめながら改善を重ねることです。
モリエンでは、DXや生成AIの活用事例発表会の見学受け入れ、自社開発してきた販売管理ソフトの提供、他社向けシステム開発の支援、そして小規模企業でも導入しやすい生成AI環境の提供など、「小さく作って大きく育てるDX」を支援しています。また、塗料販売だけでなく企業さんの塗装や営繕工事も対応しておりますので、DX・生成AI・塗料・塗装に関するお困りごとがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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