近畿総合通信局長賞株式会社USEYA

XR技術とスマートグラスを用いた
モノづくりのDX・技能伝承システム「SHUGI」

株式会社USEYAは、2008年創業、大阪市に本社を置く、XR × AIを活用した技能継承や働き方改革に強みを持つ製造・技術企業です。単なる効率化ではなく、“誰もが参加できるものづくりの未来”を掲げたDXの取り組みが評価され、KANSAI DX AWARD 2025 近畿総合通信局長賞を受賞しました。現場と技術をつなぐDX推進の組織体制を整え、XR・AI・デジタル製造技術を活用した技能伝承や遠隔ものづくりに取り組むことで、作業効率向上や若手育成のスピードアップ、さらに新しい働き方の創出を実現しています。今回は、こうした取り組みの背景や成果、今後のビジョンについて、大子修代表取締役に伺いました。

─貴社がDXに取り組むことになった背景を教えてください。

一言で言うと、ものづくりの現場が抱える“構造的課題”への危機感です。特に深刻だったのが技術伝承の断絶で、「このままでは技能が失われ、生産の担い手がいなくなる」という強い危惧がありました。熟練者は確かに存在していますが、彼らのスキルの多くは言語化できない“暗黙知”。手の角度、力加減、体重移動、どこを見て判断するか。動画でもマニュアルでも再現できません。「教えたいのに教えられない」「学びたいのに分からない」というギャップが技能継承の最大の壁になっていました。若手不足から熟練者に負荷が集中し、育成が進まないという悪循環も起きていました。さらに地方では「指導者そのものがいない」という状況も多く、場所の制約が技術の停滞を生んでいました。

─DXに取り組むうえで、課題解決の方向性はどのように見出されたのでしょうか。

AIで人を減らすためではなく、“参加できる人を増やすため”にDXを使えると確信したことが大きかったです。身体的に現場に行けない方、子育てや介護でフルタイムで働くことが難しい方、海外在住の方であっても、XRやAIがあれば「距離を超えて一緒に働ける」。DXを“排除ではなく包摂のために使う”という思想が私たちの根幹にあります。 こうした考えのもと、当社は次の三本柱でDXを推進しています。

①技能継承のDX「SHUGI」 ― 暗黙知をXR・AIで可視化し、誰でも学べるようにする。
②遠隔ものづくりのDX ― 場所に縛られず協働できる製造体験を実現する。
③参加型DX ― 来られない人も、現場にいる人と同じように働ける仕組みをつくる。

この三本柱を通じて、“誰もがものづくりに参加できる未来”をつくることを目指しています。

─DXを進めるうえで、特に苦労された点は何でしょうか?

最も大きかったのは、「技術は優れているのに現場で使える状態にならない」というギャップでした。XRやAIは高いポテンシャルを持っていますが、工場や製造の現場には、通信環境の制約、粉塵・油・高温などの設備環境、作業動線の確保、安全基準、保護具との干渉など、机上にはない条件が多数存在します。
そのため、技術を持ち込めばすぐに定着するわけではありません。「現場側のやり方を変えさせる」のではなく「技術側を現場に合わせてチューニングする」という姿勢が欠かせませんでした。また熟練者の技能は“暗黙知”の塊で、判断の間合い・視線の動き・体重移動・力の配分など、言葉にも動画にも残りにくい要素が多く、それを数値化・構造化して再現できる形に落とし込むには膨大な検証と失敗の積み重ねが必要でした。

─技術面以外の課題はどのように現れましたか?

むしろ最初に立ち上がったのは「人の心理的抵抗」でした。
「AIで仕事が取られるのでは」「自分の価値が下がるのでは」「失敗を見られるのが怖い」といった不安は予想以上に大きく、DX推進のスピードを鈍らせていました。そこで私たちが徹底したのは、対話による“誤解の解消”です。DXの目的は人を減らすことではなく、負担を減らし、技術を守り、参加できる人を増やすことであると繰り返し伝え続けました。

─その困難をどのように乗り越えてこられたのでしょう?

ポイントは一言で言うと「スモールスタート」と「並走」です。
最初から完成形を目指すのではなく、小規模の工程に導入 → 検証 → 課題の抽出 → 改善 → 再適用という積み上げ方を選びました。これにより、「導入されるDX」ではなく「現場が自発的に育てていくDX」へと変わりました。
また、XRやAIは説明より体験のほうが圧倒的に理解が早いため、デモやハンズオン、作業現場における実演を重視し、“目の前で技術が役立つ瞬間”を共有することを徹底しました。これにより、理解と信頼を獲得できました。
導入後も、運用ルール作成、現場教育、管理方法、アップデート、改善対応まで継続的に伴走し、「導入して終わり」ではなく「自然に根付くDX」へと成長させることを意識しました。現在は、技術提供にとどまらず、内製化支援・運用設計・人材育成まで支援する体制を整え、企業がDXを自走できるところまで寄り添うことを重視しています。
つまり、対話・体験・段階的導入・継続サポートの4点を一貫して積み重ねてきたことが、困難を乗り越えDXを成功に導いた最大の要因だと考えています。

─貴社が取り組まれているDXの具体的な内容を教えてください。

当社のDXは、単なる効率化ではなく、技能・距離・参加の壁をなくすことを目的にしています。XR・AI・IoTを組み合わせ、誰でもものづくりに参加できる環境をつくっています。

①技能継承DX「SHUGI」
熟練者の動作をデジタル化し、学習者に重ねて表示することで、従来伝えられなかった暗黙知を習得可能にしています。XRデバイスとモーショングローブで指先や体全体の動きを記録し、AIで解析してフィードバックを提供します。

②遠隔ものづくりDX
現場に熟練者がいなくても、スマートグラスとXRで作業状況を共有し、遠隔から指導できます。AIが作業を解析して誤りを検知する仕組みも導入し、海外からでも共同作業が可能です。

③デジタル製造DX
3Dスキャンやプリンタ、WebARを活用し、製造工程をデジタル化しています。操作記録や製造データはクラウドに蓄積され、地域や年齢を問わず誰でも参加できる“デジタル工房”を提供しています。

④参加型DX
身体的理由や遠隔地のため現場に行けない方でも、XRや3Dデータを活用して技能指導や設計・検査に参加可能です。DXを通じて、新しい働き方の創出にもつながっています。

⑤WEBシステムDX
行政や企業向けにCMS、EC、予約管理、遠隔支援用WebRTC、IoT連携ダッシュボードなどを構築し、地域全体のデジタル基盤を支えています。

─それらの取り組みの成果について教えてください。

当社のXR×AIによるDXは、単なる効率化ではなく、学びやすさや参加者の拡大にも効果が出ています。
技能継承DX「SHUGI」では、熟練者の動作を可視化することで、作業理解にかかる時間が1時間から10〜15分に短縮され、若手も「感覚がつかめた」と自信を持てるようになりました。
遠隔ものづくりでは、移動が必要だった技術指導をオンラインで完結でき、移動コストも削減。熟練者からも「技術が残るのは嬉しい」と前向きな声が増えました。
さらに、現場に来られない方や遠隔地の方も参加できるようになり、人材の幅が広がったことも大きな成果です。作業効率、育成スピード、社内の心理的安全性など、多方面で効果が出ています。

─KANSAI DX AWARD受賞後の社内外の反響について教えてください。

受賞により、社内では「自分たちのDXが評価された」と実感する声が広がりました。熟練者や若手からは「もっと活用したい」「次の工程にも展開したい」と前向きな反応が増え、導入当初の抵抗感もほとんどなくなりました。社内の誇りや積極性が高まったことは大きな変化です。
外部からも反響が大きく、取引先や行政からは「同じような遠隔支援や技能継承を導入したい」「デジタル工房を見学したい」といった具体的な相談が増えています。海外からの問い合わせも増え、参加型DXへの関心の高さを実感しています。受賞は、社内の意識改革と外部からの信頼強化の両方に寄与しています。

─今後のビジョンや計画について教えてください。

当社は、XR × AI × デジタル製造で進めてきた取り組みを日本国内にとどめず、世界に通用する参加型ものづくりプラットフォームとして発展させることを目指しています。現在、チェコ共和国や英国など欧州の大学・XR企業と連携し、技能継承や遠隔ものづくりに関する共同研究・共同開発も進み始めています。
今後は、国内外のデジタル工房をオンラインで接続する「USEYAファブラボネットワーク(仮)」の構築を計画しており、3Dスキャン、3Dプリント、XR遠隔作業などの基盤を共通化することで、どこからでも共同製造や学習に参加できる環境を整えていきます。
最終的には、アジア・欧州・北米へと連携を拡大し、世界中の誰もが参加できる分散型デジタル工房のエコシステムを実現することが私たちの大きな目標です。

─最後に、これからDXを推進される企業の皆さまへのメッセージをお願いします。

DXで強く感じたのは、「完璧な技術よりも、人が安心して一歩を踏み出せる空気づくりが重要」だということです。新しい仕組みには自然に不安が生まれますが、対話と小さな成功体験で少しずつ前向きな空気に変わっていきます。
DXは効率化だけでなく、働き方の選択肢を広げ、技能を守り、参加できる人を増やす取り組みです。当社では、国内外のデジタル工房やXR遠隔支援を通じて、多様な人材が関われる環境づくりも進めています。これからDXに取り組む企業の皆さまには、「まず始める勇気」と「目的を共有し続ける粘り強さ」を大切にしてほしいと思います。小さな一歩の積み重ねが、やがて大きな成果につながります。

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