近畿経済産業局長賞チトセ工業株式会社

中小製造企業のDXリーンスタート
“まずは見える化から”

チトセ工業株式会社は、1962年に創業し大阪府八尾市に本社を置く、金属プレス加工、無酸化炉中ろう付け、無線電子機器開発を行う製造企業です。経営理念は「より良いものを、より良く」。常に一歩前進の姿勢で創意工夫に努め、人々に信頼されるものづくりを通じてより良いくらしを支える企業を目指しています。工場のスマートファクトリー化、IoT・DX製品の外販等、デジタル関連ビジネスを積極的に展開されている点が高く評価され、KANSAI DX AWARD 2025 近畿経済産業局長賞を受賞しました。今回は、同社のDX推進のきっかけや取り組み、成果、今後の展望について、事業開発部の出来祥寛部長に伺いました。

─貴社がDXに取り組むことになった背景を教えてください。

DXを本格的に進めるきっかけになったのは、2019年の新社屋「Cool Factory」の建設でした。旧工場は老朽化やレイアウトの非効率といった課題があり、それを抜本的に改善するタイミングでもありました。
私たちが掲げたスローガンは「かっこいい工場をつくろう」。ここでいう“かっこよさ”とは、見た目のデザインだけではなく、お客様本位で儲かる工場・社員にやさしい工場・IT/IoT先進の工場という3つを兼ね備えることを意味しています。

─その「かっこいい工場」を実現するうえで、特に重視した考え方は何だったのでしょうか。

「デジタルは人を減らすための手段ではなく、人を助けるもの」という考え方です。DXの起点に置いたのは“現場の声”。社員一人ひとりが自分の業務を理解し、改善につなげられるよう、まずは見える化を徹底しました。その積み重ねにより、いまでは全員がデータを根拠に対話できる組織へと変わりつつあります。

─DXを進めるうえで、特に課題や苦労された点は何でしょうか?

導入当初は「現場にデジタルは不要」「難しそう」といった声が多く、抵抗感がありました。特に日々の業務が属人的で慣習化していたため、従来のやり方を変えることに心理的なハードルがありました。

─その課題をどうやって乗り越えられたのですか。

まずは掲示物の電子化など、身近な“小さな見える化”から着手しました。現場リーダーを中心に効果を体感する小規模な実証を繰り返すことで理解を得ていきました。また、社内勉強会や朝礼での共有を通じて、「DXを全員で取り組む文化」として定着させました。ツールやシステムも社員自身が“自分たちで作る”ことで、理解度や主体性が高まり、自然とデジタル文化が根づいていきました。

─成功の秘訣は何だったと思われますか?

成功の要因は4点あります。1点目は「トップの覚悟と現場の自律性の両立」、2点目は「無料・自前・現場主導」という3原則、3点目は「見える化 ⇒ 分析 ⇒ 制御」という段階的ステップアップ、そして4点目は「社員が自分で作り・使うDX文化」を醸成できたことです。これにより「DX=現場改善」という意識が全社員に共有され、変化を止めない組織の原動力となりました。

─貴社が取り組まれているDXの具体的な内容を教えてください。

当社のDXは、現場の「見える化」を軸に進めています。まず社内情報共有の見える化として、LINE WORKSやNotion等を活用し、稟議やスケジュールなどをデジタル化しました。全社員がリアルタイムで情報にアクセスでき、伝達ロスを解消しました。
また、自社開発のデジタルサイネージを社内10カ所に設置し、経営理念や年度方針、安全管理、5S活動などを掲示。ディスプレイで常に可視化されることにより、方針の徹底と社員間のコミュニケーションをが促進されました。
作業予定や進捗も見える化しています。当日の作業内容や担当者をリアルタイム表示することで、人数・進捗管理が一目で把握でき、作業効率が大幅に向上しました。
さらに、職場環境の見える化も進めています。
WBGT値(暑さ指数)を常時モニタリング。熱中症リスクを警告する装置を自社開発し、安全・衛生・品質のすべてをデータで管理できる仕組みを整えました。
最後に、“プレス屋が作ったDXシステム”として開発したHaruca Smart Pressにより、プレス機のショット数を長距離無線でリアルタイム監視し、生産ロットごとの進捗や稼働率を自動計算し、メンテナンス時期をアラートで通知します。

─それらの取り組みの成果について教えてください。

まず社内情報共有のスピードが格段に上がりました。稟議・掲示・日報がリアルタイム化し、情報伝達ロスを解消しました。
職場環境の改善も大きな成果です。WBGT値(暑さ指数)の見える化により、熱中症事故はゼロを継続しています。
プレス部門では労働生産性が36%向上しました。また、採算品目も可視化され、見積と実績の差異分析を通じて改善活動が行われています。
さらに、生産・品質・環境データを数値化したことで、PDCAの精度が向上し、データ駆動型の経営基盤を確立できました。

─KANSAI DX AWARD受賞後の社内外の反響について教えてください。

今回の受賞をきっかけに、社内では自信と誇りが生まれました。「自分たちの努力が社会に認められた」という声が多く、DX活動がさらに加速しています。
また、外部からの問い合わせや関心も高まり、取引先や地域企業、教育機関からの見学・連携依頼も増え、中小製造企業DXのロールモデルとして注目されています。

─今後のビジョンや計画について教えてください。

私たちは、自社で培ったIoT技術とデータ活用のノウハウをベースに、自社改善にとどまらず「中小製造業のスマートファクトリー化を支援する立場」へと歩みを進めたいと考えています。コンセプトは「見える工場 ⇒ 止まらない工場⇒ つながる工場」。まずは個々の設備や職場での見える化を徹底し、その次に設備同士、拠点間、さらにはサプライチェーン全体におけるデータの連携まで拡大を目指しています。 また、「Haruca Smart Press」 を中核に据え、生産管理・金型管理・品質管理の情報を統合します。これらの取り組みにより、地域産業全体のConnected Industries(つながる工場)実現に貢献していきたいと考えています。

─最後に、これからDXを推進される企業の皆さまへのメッセージをお願いします。

DXの第一歩は「見える化」です。特別な投資や専門知識も不要です。無料ツールや現場の工夫から始めるリーンスタートこそ、中小企業にとって現実的で持続可能なDXの形です。 現場のリアルな“見える化”は、その場に立ってこそ実感できます。ぜひ一度、Haruca Smart Press を見に来てください。現場での変化を体感すれば、中小企業でもできるDXの可能性をきっと感じていただけるはずです。 私たちはこれからも、“自前のDX”で現場を変え、地域のものづくりの未来を支えていきます。

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