関西DX戦略2025

公益社団法人 関西経済連合会

企業連携賞西日本旅客鉄道株式会社

取締役兼執行役員 デジタルソリューション本部長 奥田英雄氏

「私たちの志」の実現にむけ
自社のリソースを核としつつ
企業・自治体等との連携で新たな価値創出

コロナ禍で人の移動が激減し、当社グループの事業は、鉄道だけでなく、ショッピングセンター・ホテル・物販なども、非常に大きな影響を受け、移動に連動する事業ポートフォリオに対する強い危機感を抱いた。また、少子高齢化・人口減少やデジタル化の進展など社会の変化は、新型コロナウイルスの流行以前から予兆があったにも関わらず、これらの変化に鈍感になっていたことも反省した。
アフターコロナの現在でも、新幹線・在来線ともにお客様のご利用はコロナ前の水準には回復していない。テレワークをはじめとした社会の行動変容は、「10年後の未来が突然に訪れた」 ものであり、人口減少が進行することを踏まえると、鉄道の基礎的な需要は、今後も戻ることはないと理解している。

このように、社会が大きな転換点を迎える中、当社グループが将来に向けて社会に価値を提供し続けるために、経営幹部や中堅社員を巻き込み、改めて将来に向けた当社の存在意義を議論。当社グループの経営の羅針盤、いわゆるパーパスとして「私たちの志」(人、まち、社会のつながりを進化させ、心を動かす。未来を動かす。)を策定した。
「私たちの志」には、これまでに培った駅などのリアルな接点を活かしつつ、①「リアル×デジタルの融合」により価値を提供する、②データやテクノロジーを駆使し、One to Oneのサービス提供を行う、③当社のサービスを「プラットフォーム化」する、④鉄道や移動にかかわらず、様々な社会課題解決に挑戦し、持続可能な未来を自ら創出するといった思いを込めており、データ・テクノロジーを駆使した新たな価値を提供することを世の中に宣言した。 この羅針盤のもと、デジタルを活用した未来型のまちづくりにむけ、社外と連携しながら、「グループシナジーの最大化」「鉄道のシステムチェンジ」「新たな事業の創出」などを推進している。

「グループシナジーの最大化」の観点では、当社の提供する移動生活ナビアプリ「WESTER」を基軸に、デジタルでのお客様との接点を活かし、新たな需要の創造に取り組んでいる。グループ各社の様々な会員・ポイントサービスも「WESTERポイント」として統合し、一人ひとりのニーズに応じて段違いに便利・おトク・楽しい「WESTER体験」を提供する環境が整った。具体的な成果は、今後拡大を図っていく段階だが、WESTER会員やアプリDLの増加、ポイントの付与・利用数の拡大など、お客様からの認知が向上していると実感している。また、「WESTER」搭載デジタルスタンプラリーでは、実際にお客様の行動変容を促すことが実証され、2023年度中で約50件を実施、約50万人の参加実績となるとともに、自治体や地元企業など、外部連携によるスタンプラリーの展開も進めている。
「鉄道のシステムチェンジ」の観点からは、AI技術を活用した鉄道設備点検の効率化等に取り組んでいる。自動改札機の故障予測AIの開発事例では、当社内での活用に留まらず、鉄道他社や製造業での製造機械の故障予測にも外販(よこてん)し、各社の安全性の向上や業務効率化に寄与している。当社グループでの実際の活用事例も踏まえた提案が可能なため、導入企業から「自社での具体的活用方法や成果創出に向けたイメージが付きやすい」点をご好評いただいている。

デジタルを活用した「新たな事業」としては、NTTコミュニケーションズ株式会社、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社の支援のもと、地域で提供されるさまざまなデジタルサービスをつなぎ、サービス毎に新たな会員登録を不要とするオープン型の会員基盤サービスである「Mobility Auth Bridge」(以下「 MAB」)の提供を開始した。
近年、防災・健康に関する情報提供など、様々な分野でデジタル技術の活用が進んでおり、便利な生活サービスが数多く生まれる一方、利用者はサービスごとに会員登録やログインが必要となるケースも散見され、サービス利用の障壁となるなど、個客体験の低下が課題となっている。

MABは、ユーザーファーストの思想を念頭に、利用者が同意すれば、「移動・暮らしのための共通ID」として1つのIDでMABに参画する自治体や企業のさまざまなサービスをご利用いただけるIDサービスである。サービス利用の障壁を排除し、利用者の移動・暮らしがより便利でおトクになるだけでなく、導入する自治体や企業は、MABの利用によりデジタルサービスの個客データを横断的に収集・利活用ができることから、データインフォームドによる新たな価値の創出による地域への貢献が可能となる。大阪・関西万博に向け、関西鉄道7社が連携し、関西地域におけるシームレスな移動手段の提供のために構築した「KANSAI MaaSアプリ」の会員基盤サービスとして採用され、今後、さらなる拡大をめざしている。

これまでの取り組みを通じ、データやテクノロジーにより変革は、当社単独で成し遂げられるものではないと強く感じている。今後とも、他企業や自治体などとの「共創」により、「私たちの志」の実現をめざしていく。