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2023.4.26 What’s new

男性の育児休業取得率等の公表義務について

2023年4月1日に改正育児・介護休業法が施行されました。
今回は、この改正の内容について特定社会保険労務士の八木裕之氏より 改正内容と今後の課題等について解説いただきます。

育児・介護休業法の改正

2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月1日から3段階で施行されています。「男性の育児休業取得率等の公表の義務化」は、従業員1,000人を超える企業に、男性の育児休業の取得状況等を年1回公表することを義務付けるもので、今改正の最後の項目として2023年4月1日に施行されました。

<図表1>育児・介護休業法2021年改正の内容

施行日 内容
2022年4月1日
  • 育児休業等に関する研修の実施や相談窓口の設置など、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の義務化
  • 育児休業制度や申出先の説明など、妊娠・出産等(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知と意向確認の義務化
  • 1年以上の雇用実績を必要とする、有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
2022年10月1日
  • 子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能な、産後パパ育休(出生時育児休業)の新設
  • 原則分割不可だった育児休業が、分割して2回取得可能に
2023年4月1日
  • 従業員数1,000人超の企業に、育児休業の取得状況を年1回公表することを義務化

育児休業取得率等の公表

①対象企業

常時雇用する労働者が、1,000人を超える企業が対象です。「常時雇用する者」には、雇用形態を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者(有期雇用契約のパートタイマーで、契約が更新され1年以上働いている者や、1年以上雇用されることが見込まれる者など)も含まれます。

②公表内容

次の①または②のいずれかの割合

<図表2 公表内容>

好評を行なう日の属する事業年度の直前の事業年度(公表前事業年度)における次の①または②のいずれかの割合を指します。

①育児休業等の取得割合 ②育児休業等と育児目的休暇の取得割合
育児休業等をした男性労働者の数

配偶者が出産した男性労働者の数
育児休業等をした男性労働者の数
+
小学校就学前の子の育児を目的とした
休暇制度を利用した男性労働者の数の合計

配偶者が出産した男性労働者の数

育児休業等とは、育児・介護休業法に規定する以下の休業のことです。

  • 育児休業(産後パパ育休を含む)
  • 法第23条第2項(3歳未満の子を育てる労働者について所定労働時間の短縮措置を講じない場合の代替措置義務)又は第22条第1項(小学校就学前の子を育てる労働者に関する努力義務)の規定に基づく措置として育児休業に関する制度に準ずる措置を講じた場合は、その措置に基づく休業

出所:厚生労働省リーフレット「 2023年4月から、従業員が1,000人を超える企業は男性労働者の育児休業取得率等の公表が必要です」

「育児目的休暇」とは、就業規則などで定める育児が目的である「配偶者出産休暇」などが該当し、法定の育児休業や子の看護休暇、年次有給休暇は含まれません。

③公表方法

自社のホームページや厚生労働省のウエブサイト「両立支援のひろば」など、インターネットなどの一般に方が閲覧できる方法で公表することとなっています。

改正法施行日以降に開始する事業年度から義務化が適用されます。一番早く義務化の対応が必要なのは今年3月決算の対象企業で、公表時期は公表前事業年度終了後概ね3か月以内とされていますので、6月末を目途に公表する必要があります。

今改正の意図と背景、今後の課題

今改正は、男性の育児休業取得推進に向けた内容が中心となっています。もともと、日本は先進国の中でも、父親に認められた育児休業期間は長く、制度的には充実しています。しかしながらその取得率は低く、育児の負担が女性に偏っていることが指摘されています。男性が育児休業中に主体的に育児・家事に関わることで、女性の雇用継続を実現し、夫婦が希望する数の子を持つことに資するとも考えられています。

男性の育児休業促進、仕事と生活の両立支援に取り組むことは、企業のイメージアップ、社員の意識向上、生産性向上、優秀な人材確保、人材定着につながります。これらのメリットは十分理解されているにもかかわらず、男性の育児休業の取得が進まないのは、「職場が育児休業を取りづらい雰囲気だったから」「会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから」といった育児休業の取得をためらわせるような職場環境を変えていくことが喫緊の課題です。

昨今「人的資本経営」という言葉がよく聞かれます。経済成長や企業成長にとっての無形資産の重要性が増すなか、その形成の鍵を握る人材をいかに強化するかに焦点が当たっています。投資家の投資判断基準にも人的資本情報が考慮されるようになっており、育児・介護休業法に基づく「男性の育児休業取得率等の公表」以外にも、人的資本情報の開示は今後ますます求められるようになります。人材確保・定着の観点からも、人的資本情報の開示は働き手にとっては、その企業で働くかどうかの重要な判断基準となり、企業としてより一層の実質的な「人への投資」を考えていくことが重要となってきます。

【引用・参考文献】

國澤勇人・下野雄介・方山大地「人的資本の開示に関する動向と実務上のポイント」労政時報 第4044号/22.10.28
厚生労働省「育児・介護休業法令和3年(2021年)改正内容の解説」

八木 裕之(やぎ ひろゆき)

≪執筆者プロフィール≫
八木 裕之(やぎ ひろゆき)

特定社会保険労務士。産業カウンセラー。キャリアコンサルタント。
1962年大阪生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士課程前期修了。民間企業の人事部門、コンサルタント会社勤務を経て独立。大阪労働局労働関係紛争担当参与、大阪商工会議所専門相談員。日本労務学会、日本労働法学会会員。