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Kansai D&I News
2023.10.5 オピニオン

愛情とリスペクトがD&I推進のカギ
――三井物産 松久 藤子 氏

三井物産 関西支社 副支社長 松久 藤子 氏

三井物産 関西支社 副支社長
松久 藤子 氏

三井物産に入社し、2001年担当職(総合職)に移行。13年東京本店営業室長、16年広報部 編集制作室長、22年から関西支社副支社長を務める松久藤子さん。総合商社三井物産における女性管理職のパイオニアとして歩んでこられた松久さんに、ご自身の経験をもとにキャリアパスの考え方を聞いた。

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――これまでのキャリアから、ご自身でターニングポイントであったと思われる点を3つお聞かせください。

 1つ目は、業務職から担当職への移行とロンドンへの長期出張です。三井物産では勤務地を限定しない担当職、勤務地を限定する業務職の2つの職種があります。私が入社した1990年には女性は全員業務職の前身の職種で、当時は主に担当職の補助的な役割期待でした。2001年に担当職に移行したのですが、それまでやっていた業務の仕事が気になって仕方がない。何かと口出ししてしまい、なかなか切り替えができませんでした。そんな時ロンドンの子会社への出張の話があり、1年間海外勤務を経験。東京から離れることでマインドチェンジができ、営業の松久として戻ってくることができました。あのまま同じ部署にいたら、本来やるべき仕事に集中できないままだったかもしれません。気力体力ともに充実した30代に提案力や交渉力を身に付けることができ、以降のキャリアに大きなプラスとなっています。

 2つ目は、東京本店での営業室長としての経験です。ロンドン勤務時に管理職を経験していましたが、海外と日本では勝手が違う。ロンドンでは、現地採用のスタッフが多く、人材の流動性も高いので、マネジメントする上では、単年度の精緻な目標設定とその評価に対する説明責任を重視する形で行っていました。一方日本では、新卒入社で終身雇用が前提とされるなかでキャリアを歩む社員が相対的に多く、例えば人事評価については、個人の単年度の成果を評価することに加えて、当社での中長期的なキャリア形成(人事異動施策)を踏まえた業務内容の検討など複合的な視点をもとに行う必要性をより強く感じました。本店での営業室長としての経験は長期的な視点を持って、部下への接し方を考える機会になりました。

 3つ目は、広報部での室長としての経験です。広報部ではブランディングや社内報など社内外の発信を行っていました。入社以来、一貫して金属資源本部の仕事をしてきましたので、広報は素人でした。細かなことは言えないので、社内調整や方向性・あり姿を示すことなどに専念しました。この経験がそれまでのマイクロマネジメントから部下の自主性を重んじるマネジメントに変える大きなきっかけになりました。

 また、広報部には様々な部門出身の人材が集まっています。部署が違うと常識や考え方が違い、異なるバックグラウンドを持つ人たちが集まって仕事をすることで、多様な意見や発想が出てきます。違うことに価値があることへの気づきも後の仕事に役立っています。

――海外でのご経験も踏まえて、日本における女性活躍の現状と今後をどう捉えていますか?

 会社からスイスのビジネススクールに派遣された際、男女問わず複数のエグゼクティブ候補から「日本企業が女性を派遣するなんて珍しい」と言われました。海外で日本がどう見られているか、危機感を持つべきだと思います。海外人材からすると、多様性が尊重されない国では活躍できないと感じてしまう。海外の優秀な人材を獲得するためには、法制度や給与だけでなく働く環境も大切です。男女の性的役割分担は長い間に培われてきた考え方の問題なので、すぐには変わらないと思いますが、企業のトップが強い意志をもって変えていかないといけないと感じています。

――企業として多様性を高める必要性をどのように捉えていますか?

 多様性を高めるうえでは、個性や能力、考え方を認め合うインクルージョンが欠かせません。インクルージョンできないのであれば多様化しない方がよい。高度経済成長期のように、目標に向かって足並み揃えて突き進み成果を出す、という時代であれば、同質な人材を集めたほうが生産性は高いです。しかし、今のように世の中が凄まじい速さで変わっていく環境では、同じことをしていては生き残れません。古いものを変え、新しいものをつくるには多様性は必須です。新たな発想によるイノベーションが起こることは当然ですが、多くの人がAを選択するとき、少数意見であるBやCの意見を聞くことで、Aの完成度があがる効果も期待でき、多様な意見がはいることで組織がより強く、クリエイティブになると感じています。

――これまで様々な仕事や役職を経験されていますが、共通してご自身が大事にされている考えや信念を教えてください。

 入社以来ずっと大切にしているのは、自分の幸せは自分で決めるということです。2つのポイントがあり、1つは自分で決めること。自分の決断に対しては自分で責任が取れ、結果に対して不満を持つこともないので、納得することができます。もう1つは他人と比較しないこと。自分の満足度を測るときは、自分のものさしを持つことが大切だと思います。

 管理職になってから大切にしているのは、部下に愛情を持ち、周りの人をリスペクトすることです。意識してよいところを探していると、人とのコミュニケーションが豊かになります。また、自分と異なる価値観を受け入れることで新たな発見があります。誰しも自分と同じ考えをもった人に好意を持ちますが、異なる価値観や意見を持つ人にも愛情とリスペクトを持ち続けることが大切だと思っています。

――D&I推進担当者と働く女性へのメッセージをお願いします。

 D&Iの推進には双方向のリスペクトが必要です。日本では、マジョリティである男性がマイノリティである女性をリスペクトしていくべきだという文脈で物事が語られることがあります。しかし、一方的に理解を求めるのではなく、互いの考えや価値観を理解し、お互いにリスペクトする必要があると感じています。

 女性の皆さんには、「出産や子育てなどライフイベントがあるかもしれないから海外勤務はしない」というように最初から自分の可能性を閉じるのではなく、チャンスがあれば掴んでいってほしい。そのためにも一人で乗り越えようとせず、家族や上司、同僚など周りを味方につけて、サポートしてもらえる環境や人間関係を構築してほしいと願っています。