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2024.2.7 What’s new

障害者の法定雇用率引き上げについて

企業に義務づけられている障害者の雇用率について、令和5年度からの障害者雇用率は2.7%となります。
今回は、この改正の内容について特定社会保険労務士の八木裕之氏より改正内容と今後の課題等について解説いただきます。

障害者雇用促進法の改正

 2023年12月に障害者雇用促進法が改正され、就労機会の拡大のため、今まで雇用義務の対象外であった短時間勤務の重度身体障害者等についても、実雇用率において算定に含めるようにすることや、障害者雇用調整金等を見直す一方、企業が実施する職場定着等の取組みに対する助成措置を強化すること等が定められました。これに先立ち2023年1月の労政審議会で、障害者法定雇用率が段階的に引き上げられることが決定しました。施行は一部を除き2024年4月1日です。

改正内容の概要

障害者の法定雇用率の段階的引き上げ

 一定数以上の労働者を雇用する事業主に対しては、労働者に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を法定雇用率以上にすることが義務付けられています。

 現在、民間企業における法定雇用率は2.3%ですが、2024年4月1日以降は2.5%に引き上げられます。これにより、現在は43.5人以上の労働者を雇用する事業主に障害者雇用の義務が課せられているところが、今年4月以降は障害者雇用の範囲が40人以上の労働者を雇用する事業主に拡大されます。さらに、障害者の法定雇用率は今後も段階的に引き上げられることが予定されており、2026年7月には2.7%となり、37.5人以上の企業で雇用義務が発生することになります。<図表1>

<図表1> 障害者の法定雇用率の引き上げ(民間企業)

2023年度 2024年4月 2026年7月
法定雇用率 2.3% 2.5% 2.7%
雇用対象規模 43.5人 40人 37.5人

 障害者雇用が義務付けられる事業主は、毎年6月1日時点での障害者雇用状況をハローワークに報告する義務があり、報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合、罰則規定(30万円以下の罰金)も定められていますので、法定雇用率の引き上げは実務的にも相当に影響が大きいといえます。

特定短時間労働者の実雇用算定率

 障害者の雇用率の算定にあたっては、短時間労働者(週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の者)については、原則0.5人として算定しています(精神障害者である短時間労働者については、職場への定着を進める観点から、当面の間1人として扱う)。

 障害者雇用促進法は、障害者の職業的自立を促進するという観点から、週における労働時間が通常の労働者の半分に満たない時間の労働では、職業生活において「自立」しているとはいえないという考えに基づき、週20時間未満の障害を持つ労働者については、実雇用率の算定対象に含めてきませんでした。

 とはいえ、障害の特性によっては、長時間の勤務が難しいことや、症状の悪化に伴う一時的な不調等により、週所定労働時間20時間未満での雇用を希望する人は一定数存在し、特に精神障害者については、近年その割合が増加する傾向にあります。このような事情も勘案し、週20時間未満での雇用機会の拡大を図る観点から、事業主が、所定労働時間が特に短い(10時間以上20時間未満:厚生労働大臣告示)重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者を雇用した場合、「特定短時間労働者」として実雇用率の算定に含めることができるよう改正されました。<図表2>

<図表2>「特定短時間労働者」の算定特例

雇用率制度における算定方法が措置予定の内容(が措置予定の内容)
週所定労働時間 30時間以上 20時間以上
30時間未満
10時間以上
20時間未満
身体障害者

重度
1

2
0.5

1
-

0.5
知的障害者

重度
1

2
0.5

1
-

0.5
精神障害者 10.5 0.5

※要件の緩和を行った上で、 0.5ではなく1とカウントする措置を令和5年度以降も延長。
出所:山本(2023)

 現在、特定短時間労働者を雇用している事業主に対しては、雇用する障害者1人につき、月額7,000円(100人以下の場合は5,000円)の「特例給付金」が支給されていますが、本改正に伴い週所定労働時間20時間以上での雇用が困難な者に対する就労機会を拡大することが可能になるとして、特例給付金制度は廃止されます。

障害者雇用調整金・障害者雇用報奨金・助成金

 現状では、常時雇用する労働者が100人を超える企業であって、障害者の法定雇用率が未達成である事業主から納付金を徴収し(不足1人につき原則月額5万円)、達成している企業には「障害者雇用調整金」(常用労働者100人超の企業について超過1人につき月額29,000円)、「障害者雇用報奨金」(常用労働者100人以下の企業について超過1人につき月額21,000円)支給されています。これは、すべての事業主は、社会連帯の理念に基づき、障害者に雇用の場を提供する共同の責務を有しているとの理念のもと、障害者の雇用に伴う経済的負担を調整するとともに、障害者を雇用する事業主に対する助成を行うため、事業主の共同拠出による納付金制度が整備されてきたことによるものです。

 しかし、民間企業における障害者雇用は、障害者雇用数は昨年から28,000人以上増えて642,178.0人と過去最高を更新しています(厚生労働省「令和5年障害者雇用状況の集計結果」)。法定雇用率達成企業の割合は50.1%と約半数程度にとどまっていますが、障害者雇用者数が増えることにより、納付金制度の財政の見通しが厳しくなってきており、また障害者の雇用者数で評価するのではなく、職場定着の取組み等、雇用の質の向上を支援する助成を充実するべきだとの指摘もされるようになりました。

 そこで、2024年4月1日以降、事業主が一定数を超えて障害者を雇用する場合、当該超過人数分の調整金や支援金の支給額が調整されることになりました。これにより、2024年4月1日以降は、調整金について、支給対象人数が10人を超える場合には、当該超過人数分への支給額が1人当たり23,000円(6,000円調整)となり、報奨金については、支給対象人数が35人を超える場合には、当該超過人数分への支給額が1人当たり16,000円(5,000円調整)と減額されます。なお、これらの支給額の調整は、2024年度の実績に基づいて行われるため、翌2025年度支給分から適用となります。

 また、事業主の新たな取り組みを支援するため、従来の「特定求職者雇用開発助成金」などに加えて、雇い入れや雇用継続を図るために必要な一連の雇用管理に関する相談援助の支援を行う「障害者雇用相談援助助成金」、加齢に伴い職場への適応が困難となった障害者への雇用継続支援を行う「中高年齢等障害者職場適応助成金(仮称)」が新設されます。詳細は未定の部分もありますが、随時厚生労働省ホームページでご確認ください。

今後の実務対応・課題

 法定雇用率の引き上げに伴い、2024年4月1日になれば、40人以上の企業で新たに障害者雇用の義務が生じることになります。その後もこれまで障害者雇用の義務がなかった企業において、雇用義務の有無を常に意識し、該当した場合は障害者雇用状況の報告を確実に行う必要があります。

 障害者雇用にあたっては、本改正で設定された週10時間以上の勤務という新たな枠組は、これまでの障害者雇用のハードルが下がることにもなります。各企業において社内業務の切り出しを行い、週10時間以上の障害者雇用ができる「ジョブ」の創出が求められます。

 今回の法改正では、障害者の法定雇用率の引き上げや、障害者雇用調整金や報奨金の減額などに目が行きがちですが、障害者雇用についての基本的な姿勢に関する重要な改正が盛り込まれています。それが、職業能力開発・向上に関する措置への対応です。改正された障害者雇用促進法の第5条は、事業主の責務として、「全て事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであつて、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。」と規定しています。下線部が今改正により追加されました。つまり、努力義務でありながらも、雇用の場を与えるだけではなく、適正な雇用管理を行うこと、障害者のキャリア形成の支援が事業主の責務であることが明記されたことになります(山本2023)。障害者雇用は、従来の「福祉型雇用」からキャリア形成の支援を含めた「戦略的活躍支援」の段階にきているといえます。

 2023年3月に改定された、厚生労働省の「障害者雇用対策基本方針」では、「第3 事業主が行うべき雇用管理に関して指針となるべき事項」において、障害の種別に応じた配慮事項が列挙されています。また、「雇用の質の向上に向けた事業主の責務の明確化」の内容についても盛り込まれており、今後の障害者雇用の参考となります。
https://www.mhlw.go.jp/content/001083437.pdf

【引用・参考文献】
北岡大介「2023年度労働法制の動き」産労総研編『人事・労務の手帖2023年版』経営書院 2023年
土屋真也・石嵜大介「これから施行・改正される法令のポイントまとめ」『労政時報』 第4067号/23.11.24.
山本一貴「障害者雇用促進法等の改正を機に考えるこれからの障害者雇用」『労政時報』 第4057号/23.6.9
八木 裕之(やぎ ひろゆき)

≪執筆者プロフィール≫
八木 裕之(やぎ ひろゆき)

特定社会保険労務士。産業カウンセラー。キャリアコンサルタント。
1962年大阪生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士課程前期修了。民間企業の人事部門、コンサルタント会社勤務を経て独立。大阪労働局労働関係紛争担当参与、大阪商工会議所専門相談員。日本労務学会、日本労働法学会会員。