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Kansai D&I News
2025.7.29 企業の取り組み最前線

老舗ホテルが進めるD&I推進
~RWC(Royal Women’s Committee)が創る現場発信の多様性改革へ~
――ロイヤルホテル

ロイヤルホテル 執行役員 人事部長 古川 博文 氏

ロイヤルホテル 執行役員
人事部長

古川 博文 氏

ロイヤルホテル 経営企画部

ロイヤルホテル 経営企画部
ブランド戦略推進室 室長

髙坂 順子 氏

ロイヤルホテルでは、RWC(Royal Women’s Committee)という部門横断のワーキングチームの活動を中心に、女性活躍をファーストステップとしてD&Iの取り組みを進めている。人事部の古川博文さん、経営企画部の髙坂順子さんに話を聞いた。

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――貴社のD&Iの取り組みにつきまして、基本的な考え方や方針をお聞かせください。

古川ホテル業界は他業種と比べて多様性や女性活躍への取り組みが遅れている印象がありますが、その背景の一つは、体力的にハードな業務が多いことだと思います。ある意味で、「きつい仕事から女性を守ろう」という配慮が、結果として女性の活躍の場を狭めてしまった側面があるのかもしれません。しかしこれからの時代、ホテルにおいても多様性の確保や女性活躍推進は不可欠だと経営層も考えています。

 今、新入社員の6割以上が女性で、20代、30代では女性の比率が高い一方で、40代になると男女比率が逆転します。女性が40代、50代になってもライフステージの変化に影響されずに働き続けられる会社でないと、発展はありません。まずは、そこにしっかりと取り組まなければいけないと考えています。

――貴社では、女性の視点から働きがいの醸成と働きやすい環境の整備について考える社内の部門横断チームRWC(Royal Women’s Committee)を結成し女性活躍を進めていますが、発足の転機となる出来事がありましたらお教えください。

髙坂ホテルで働くことを志望する学生のうち、男性の割合は年々減少しており、採用においても女性比率が増える傾向にあります。こうした変化の中で、女性が生き生きと働ける環境づくりは企業としての責任であり、持続的な成長のためにも不可欠だと考えています。また、社会で多様化が進む中、ホテルも従来のスタイルを続けているだけでは変化するニーズに応え続けることはできません。これまでリーチできていなかったお客様層へアプローチしていくためには、従業員の多様性も不可欠です。社内に既に相当数在籍する女性スタッフですら生き生きと働けない環境では、今後増加が見込まれる外国人材や、障がいのある方、シニアといった多様な人材が活躍するのは難しい。まずは女性活躍に取り組むことが、多様性を確保する第一歩だと考え、当社で働く女性を集め意見を聞く場として発足しました。

――RWC(Royal Women’s Committee)ではどのような活動をされていますか。またその他に社内で工夫されているD&I施策などあればお教えください。

髙坂RWCは、ホテルの各部門で働く女性がキャリア形成や働き方についてさまざまな角度から議論し、その声を施策に反映させることを目的に、2022年に部門横断のワーキングチームとして発足しました。メンバー編成は毎年異なり、1年目は管理職・一般職を含む8名、2年目は管理職のみ12名、3年目は入社4〜6年目の6名が中心という構成で、模索しながら選出しています。活動の柱は、1年間の活動で出た意見を経営会議で提言することで、職場の環境改善から男女の業務分担に関するアンコンシャス・バイアスの課題まで、幅広い意見が出ています。活動に対する経営層の関心も高く、RWCでの話題や提案は、日常的に経営層に共有されており、経営会議に正式に提言する段階では、既に実現性のある形になっており、スピード感のある施策の実現につながりました。

 一例としては、1期メンバーの声をきっかけにジェンダーレスなユニフォームの検討プロジェクトが立ち上がり、サービス部門での「身だしなみ基準」の改定、事務部門ではオフィスカジュアルの導入が実現しました。以前は、女性はスカート、黒のパンプス(ヒール3〜5センチ)着用が定められていましたが、宴会準備などの業務に適さないという声を反映して、女性もスラックスを選択できるように変更しました。髪色や眼鏡、時計などの規定も見直され、「ロイヤルホテルのホテリエとして相応しい姿」を各自が考え、実践する方針へと転換しました。

 2期では、当社における「女性活躍」の定義を再構築しました。フェーズ0:出産を機に退職するのが当たり前だった時代、フェーズ1:育児や介護との両立を目的とした仕事免除型支援、フェーズ2:キャリアアップもあきらめない、家庭とキャリアを両立する支援、フェーズ3:男性も女性も共に、家庭と仕事の責任を担いながら活躍できる状態をめざした男性の意識改革(男性の家庭進出)----という段階を想定し、私たちは現在フェーズ2から3へ移行しようとしつつあることを確認し、必要な制度や支援について明確化、支援のためのツール作成など、具体的で実効性のある提言を行いました。

――RWCの取り組みの成果をどのようにとらえていますか。
社内の変化、仕事の進め方といった業務上の変化等をお聞かせください。

古川男性スタッフの意識も徐々に変化してきたと感じています。以前は女性が昇格すると「女性だから下駄を履かせてもらえたのでは」といった見方が一部にありましたが、最近ではそのようなとらえ方はほとんどありません。お子さんのいる女性が、時短勤務で時間内に仕事を終えて家庭も仕事も大切にしている姿は、「高い能力があるからだ」と会社からも評価されますし、スタッフの間でもそうとらえて受け入れられるようになってきたと思います。

 また以前は、時短勤務のスタッフは現場の責任者から敬遠されることもありましたが、その考えも変わってきました。ホテルは24時間365日稼働しており、常に人は必要なのです。その中で「時短の人をどう活用するか」という視点や意識が浸透してきました。かつては出産後の女性の現場復帰が難しく、退職を選ぶ女性も少なくなかったのですが、現在は育児休業の終了時に現場か事務職かといった希望を丁寧にヒアリングし、できる限り希望に沿った形で復帰できるように支援しています。

髙坂RWCの提言から実現したことの一つに、「時短勤務のスライド化」があります。時短で9時〜16時勤務のスタッフが、必要に応じて11時〜18時勤務に出社時間をずらすことが出来る制度で、お子さんを病院に連れていく場合などに活用でき、柔軟な働き方の一助になっています。

 また、生理休暇についても、心理的負担を軽減することを目的に「F休暇」へと名称を変更し、生理日だけでなくPMS(月経前症候群)にまで適用範囲を拡大しました。これにより、変更前にはほとんど利用されることが無かった生理休暇ですが、変更後には延べ74日の利用がありました。こういった取り組みを社内で少しずつ発信することで、妊活の話なども含め、以前は話しづらかった話題も「話していいのかな」という空気感に少しずつ変わってきていると思います。

――取り組みを進めるうえで、苦労した点をお教えください。

髙坂社内のアンケート調査では男女とも97%が女性活躍推進に賛同しているという結果でした。ただ、男性に当事者意識があるかというと、まだ十分とは言えない部分もあると感じます。長時間労働の是正や育児休業の取得など、ワークライフマネジメントの課題は男性にも深く関係するものです。働く女性のパートナーとして、あるいは上司として、傍観者ではなく当事者として関わってもらえるよう、もっと巻き込んでいく必要があると考えています。

 もう一つは、女性活躍推進に関する制度では、「制度を利用する人」と「それを支える人」という構図が生まれやすい点です。支える側に過度な負担がかかると制度は長続きしませんし、異なる立場の人に気を遣いすぎることで、率直な意見が出づらくなることもあります。制度がお子さんのいる社員にフォーカスされることが多いため、支える側となる人から、「公平性に疑問がある」といった声が個人的に寄せられることもあります。こうした声は表面化しづらいですが、無視できない課題です。今すぐ100点の解決策があるわけではありませんが、さまざまな立場の人が互いに理解を深めながら、現実的な落とし所を見つけていくしかありません。既婚・未婚、子どもの有無といった異なる立場のメンバーが集まるRWCの話し合いの場でも、自分の立場を主張することに遠慮が見られる場面があります。誰もが安心して意見を出せるような雰囲気づくりが、今後ますます大切になってくると感じています。

――今後D&I推進において特に力を入れていきたいことをお聞かせください。

古川女性活躍推進を続けていくことに加え、働き手不足の状況もあり、外国人材の登用にも力を入れていく必要があると考えています。外国人の正社員はこの数年でかなり増え、現在ではグループ全体で約80名が在籍しています。外国の方はキャリアアップのために転職されることが多いですが、当社としてはできれば長く勤めていただきたい。文化の違いや、在留資格に基づく制度上の制約などの課題はありますが、性別や国籍に関係なく誰もが安心して働き、キャリアアップできる職場づくりを進めることで、より国際的な視点を持った人材が活躍できる企業へ、グローバルなお客様に選ばれるホテルをめざしていきたいです。

髙坂昔に比べ、出産後に現場に復帰する女性も増えました。2023年には30代の女性が総支配人に抜擢されるなど、着実に女性の活躍の場が広がっています。現在、当社では女性管理職比率を2026年度に12%(「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」に基づき算出)へ引き上げるという目標を掲げており、2024年度には11%になりました。一方で、管理職登用後は責任の重さや負担感から、さらに上のポジションをめざすことに躊躇する人もいます。より高いポジションでの仕事のやりがいや面白さを、もっと積極的に伝えていくことも必要だと考えています。

 RWCのこの3年の活動を通じて、制度面ではかなり成果も得られましたが、社内の意識改革という点ではまだ道半ばだと感じます。意識の変化には時間がかかります。すぐに画期的な策が見つからなくても、愚直に取り組み続けていくことが大切で、今後も粘り強く推進していきたいと思います。