
亜細亜大学 アジア研究所
九門 大士 教授
高度外国人材の活躍に向けた政策・制度のあり方にはどのような課題があるのか。日本の受け入れ体制の特徴や企業の役割などについて、亜細亜大学の九門大士教授にお話を伺った。

――日本の外国人材政策(受け入れ制度や在留資格制度)は、現状どのような課題を抱えているとお考えですか。
高度外国人材の受け入れについては、在留資格等の制度は整備されてきているものの、まだ多くの課題があります。一つは、企業側と外国人材側の双方で、制度の認知が不足していることです。在留資格制度は職種ごとに細かく分かれており複雑でわかりづらい面があります。政府のホームページを見ても、英語や多言語でわかりやすく発信されているとはいえず、外国人材が新しい制度を知らないこともあります。企業側でも、制度やその活用方法についての理解が十分でないことが多く、外国人材採用時や入社後にトラブルにつながることもあります。制度を知っていても、その複雑さや手続きの煩雑さで、利用が進まないケースも見られます。
二つ目は、外国人材の採用後の課題です。日本で長期的に働くには、職場だけでなく地域社会、日本社会への統合が必要になりますが、その過程への支援が十分とはいえません。日本語学習の機会や生活支援が十分でなく、地域によるばらつきもあります。医療サービスを受ける際にもある程度の日本語は必要なので、不安を感じる人は多いでしょう。
高度外国人材を確保する入り口の制度は整備されつつありますが、定着・活躍の段階において、企業や社会全体での受け入れ体制が追いついていないのが現状です。
――高度外国人材との共生を進めるにあたり、企業が担うべき役割とはどのようなものでしょうか。特に、地域社会との連携における好事例や、望ましい関係の築き方があれば教えてください。
外国人材は企業で働く労働者であると同時に、地域社会での生活者だと認識することが大切です。彼らが社会生活を送るにあたって、医療へのアクセス、子どもの教育、金融機関での手続き等において、さまざまな課題があります。企業としては、彼らが地域社会と接点を持てるように、行政や産業界と連携しながら役割を果たすことが求められるでしょう。例えば、ブラジル人をはじめとする外国籍の方が多い浜松市のある会社では、習熟度に応じた日本語教室を開催して社員がコミュニケーションを取れるよう支援するなど、社内での多文化共生を推進しています。
日本人社員が外国人材を受け入れるにあたっての心構えなどの研修を行う会社もありますが、まだまだ少なく、外国人材に日本の企業に馴染んでもらうよう働きかけることが多くなっています。しかし今後は、ともに働くにあたり、お互いの文化や行動習慣などの違いを知っていくことがより求められるでしょう。
――欧州やアジア諸国と比較して、日本の高度外国人材受け入れの特徴や弱点はどこにあるのでしょうか。
労働力不足解消や国際競争力強化のため、各国が高度外国人材の誘致にしのぎを削っていますが、日本の受け入れ体制には、強み・弱みの両面があるといえます。海外では、応募する側が自分の経験やスキルを点数化し、高度外国人材としてビザを申請できるとアピールする「供給駆動型」での採用が主流です。対して日本の場合は、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格のように企業に需要があって内定を出し、手続きを経てビザが取得できる「需要駆動型」の採用が中心です。「高度専門職」ビザのようなポイント制による「供給駆動型」の側面も持ち合わせているものの 、欧米やシンガポールなどの先進事例と比較すると、依然として企業からの具体的な需要に依存する「需要駆動型」の側面が強いと言えます。
この「需要駆動型」の良さは、新卒や若手人材を受け入れやすい点です。日本はメンバーシップ型の雇用で、新卒を中心にポテンシャルで採用するため、経験の少ない外国人材にとっては入社しやすいといえます。若手の外国人材を確保しやすいのは強みと言えるでしょう。
一方で、既に豊富な経験や専門スキルを持っている外国人材が「日本で働きたい」と希望しても、自分から積極的に売り込んで仕事を得るのは難しいのが現状です。日本では企業が採用を決めてからでないとビザが出ないことが多いため、どれだけ優秀でも企業が興味を持たなければ働けません。特に、日本企業の人事システムでは非常に優秀な人材でも突出した報酬を提供することが難しく、そうした人材にも高い日本語力を求める傾向があるため、世界のトップ層の人材を受け入れるのはかなり難しい状況です。実務経験のある中堅・ミドル層の人材であっても、やはり日本語の壁や日本の企業文化に慣れない面があるため、実際には、供給型政策を打ち出しても、これらの課題が解決されなければ、期待通りにミドル人材が増えない可能性も指摘されます。
こうした日本語能力が求められる点は外国人材にとっては大きなハードルになっています。多くの日本企業では、高度な日本語が話せないと採用されないのが現実です。日本に関心を持って日本で働きたい外国人材にとって、「日本語ができないと働けない」のは大きな壁といえます。
――高度外国人材が今後さらに増えていくと見込まれるなかで、企業は中長期的にはどのような視点で活躍を考えるべきでしょうか。
日本人の代わりとして短期的に労働力を確保するために採用するという発想ではなく、人材投資だととらえる視点が必要です。日本語の問題にしても、優秀な人材で日本語能力がそれほど高くない場合には入社前や入社後に日本語研修などの投資を行えば、ある程度できるようになるはず。外国人材を、価値創造のソースとなる資本としてとらえる視点が、まずは必要です。
そのうえで、3つの方策が考えられます。第一に、日本人社員と同様にリーダー育成やキャリア開発を行い、定着・活躍を支援すること。外国人材にとって日本企業は、日本人でないと昇進しづらいガラスの天井があるととらえられがちです。評価基準を明確化するなどの対応をしていくことが大切です。二つ目は、ダイバーシティが競争力の源泉になるという考えをもとに、多様な人材を受け入れるインクルーシブな職場環境を構築していくことです。最後に、退職者と緩やかなネットワークを築くアルムナイネットワークも挙げられます。転職した人や母国に帰った人が新たな形でビジネスパートナーになることもありえます。外国人材も含めた緩やかなつながりを作っておくことは、今後より重要になるでしょう。
――高度外国人材の活躍にあたっては、「ジョブ型」か「メンバーシップ型」かといった雇用形態も一つの論点です。企業にはどのような考え方や制度設計が求められるとお考えですか。
外国人材は、自分でキャリアの見通しを立てやすいジョブ型を好む傾向がありますが、一概に、ジョブ型・メンバーシップ型のどちらがいいとはいえません。企業にもよりますが、新卒や若手はメンバーシップ型で採用し、管理職以上はジョブ型に移行するという会社も増えています。ただし、メンバーシップ型だとしても、入社時や入社後に、どんなキャリアを望むかを本人と会社で共有し、会社が社員のキャリア形成をサポートすることが大切です。
欧米では、職務ではなく個人のスキルを中心にプロジェクトを組み立てる「スキルベース型」へのシフトも見られます。もともとジョブ型が中心の欧米では、個人のスキルをデータベース化しやすいですが、日本の多くの企業ではまだ難しいかもしれません。いずれにしても、自社にとってどのような制度がいいかを、海外市場の比率やグローバル化の進展度合いなど自社の現状をふまえて考えることが大事です。
制度などのハード面だけでなく、企業風土や社員の意識といったソフト面での取り組みも求められます。外国人材にとって、日本の企業文化に馴染めない、コミュニケーションの壁があるといったことは、制度だけでは解決できない根深い問題です。外国人材の職場での孤立を防ぎ、心理的安全性を担保するために、経営層を含めてダイバーシティの重要性を認識し、日本人社員が異文化理解を深めるなど意識面での変革も欠かせません。
会社としてグローバルを含めた戦略との連動も必要です。外国人材の採用には、日本人の代わりを求める「代替型」と、日本人ができない経験や能力を求める「補完型」がありますが、代替型だと、日本人と同じように働くことを求めてしまい、その人の良さや強みがなかなか生かせないことがありえます。日本人と同じ発想をもって同じように働く外国人材を採用しても、イノベーションは期待できないでしょう。外国人材が何のために必要で、どんなことをやってもらいたいのか、企業戦略に基づいた採用計画が必要です。
――外国人材の活躍や共生を進めるうえで、企業だけでは対応しきれない課題もあると思います。国や自治体に対して、どのような支援・制度整備が求められるとお考えですか。
一点目は、在留資格制度等についての、英語を含めた多言語でのわかりやすい情報発信や、手続きの迅速化です。外国人材が日本の制度を理解しやすく、かつスムーズに手続きが進められるようなユーザーフレンドリーな環境が求められます。
二点目は、日本語教育の強化です。日本での外国人材に対する日本語教育は、ボランティアに依存しすぎています。外国人材に一定の語学学習機会を提供できるよう、国や自治体として体系的な日本語教育制度を考えていかなければなりません。生活者としての側面でも、日本語で日常的なコミュニケーションが取れることで、外国人と日本人の不要なトラブルや分断を回避することにもつながります。海外の大学での日本語学科設立を国が支援するなど、海外での日本語学習者を増やす基盤づくりも必要です。日本での就職を考える人に、日本語だけでなく文化やビジネス慣習なども教えれば、採用する企業側もコミュニケーションしやすく、採用時のミスマッチも減らせるでしょう。ただし、これらの施策は一方的に外国人材を日本に適応させるために行うのではなく、企業側もやさしい日本語や英語でのコミュニケーションをとっていくなど双方の歩み寄りの姿勢が大事です。
――企業の方へメッセージをお願いします。
なぜ高度外国人材を採用したいのかを、改めて考えていただきたいと思います。人事部門だけでなく、経営層や現場も含めて、それを言語化しておくことが大事です。外国人材の採用は、日本の企業内で起きがちな、同質化への圧力などの職場文化的な問題に向き合う契機にもなります。私がヒアリング調査をしたある地方の企業では、マレーシア国籍の社員を一人採用したことが、組織の変革を促すきっかけになりました。日本人社員がメンターとなって指導するなかで、メンターの日本人社員も外国人材の積極的な姿勢に刺激を受けたり、暗黙知を言語化する必要性に気づくなど相互の成長がみられました。このように、外国人材の採用によって組織内のよい循環が生まれる可能性もあり、外国人材だけでなく、女性、シニアなど様々な人材が働きやすいインクルーシブな職場につながります。繰り返しになりますが、外国人材の採用は、単に日本人の代替として労働力を確保するためではなく、多様な人材を受け入れ、組織をインクルーシブに、しなやかな強さを持たせるための投資だという認識が必要だと感じます。