
パソナグループ HR本部 人財開発部 部長
芝 陽子 氏
パソナグループでは、従業員一人ひとりの能力を最大化する多様な働き方の提案やキャリア構築の支援を推進している。人財開発部 部長 芝陽子さんに、次世代女性リーダー育成プログラム「ワンダーウーマン研修」を中心に、パソナの女性活躍の取り組みについて聞いた。

――パソナグループの人材育成やD&Iに関する基本的な考え方をお教えください。
パソナグループでは「社会の問題点を解決する」という企業理念のもと、人材派遣・人材紹介といったビジネスを展開しています。従業員一人ひとりが、働くことを望む方の後押しをすることで、その方の人生をプロデュースする役割を果たすことをめざしています。 人材育成の観点としては、パソナグループが大切にする3つのP:「Pure(大義名分を貫く)」「Passion(果敢に挑戦する)」「Power(新たな変革を実現する)」を軸にしています。会社が提供する研修プログラムは、経営層やグループソリューションをフル活用したプログラムが中心で、「社会の問題点を解決する」ために、世の中にどんな提案をしていけるかを常に考える機会があることが特色になっています。
年間延べ6,940名(2024年度実績)に対して研修を実施しており、昇格時やライフステージの変化の節目に参加する機会があります。個人の私生活も含めた将来設計、夢や志に焦点をあて、それぞれのステージで必要となるリーダーシップやマネジメントなどのビジネススキルを学びます。従来から、年齢・性別・障害・国籍などに関わらず研修に参加できる体制を整えてきており、例えば研修時にベビーシッターサービスを受けられる制度など、ライフステージに関わらず育成の機会に参加できる仕組みを設けています。
――研修のなかでも、次世代女性リーダー育成プログラム「ワンダーウーマン研修」導入の経緯をお教えください。
「ワンダーウーマン研修」は2014年にスタートし、現在9期目を迎えます。2014年は、第二次安倍内閣が掲げる成長戦略の柱の一つである「女性の力」に大きな注目が集まった時期で、女性活躍に関してどのような手立てを講じるのかが会社として問われ、それが社会的な評価につながる風潮がありました。当社では当時から育休復帰100%が当たり前でしたが、社内の内情をよく見てみると、管理職や営業職として活躍していた女性たちが、復職時には内勤職で戻りたいと希望する声があり、休職前と異なる役割で復職する方が多い状況でした。
長時間勤務や仕事の属人化といった、当時の働き方の慣習の改善に加え、女性たちの意識変化を促す施策を検討するなかで、女性に特化した「次世代リーダー育成プログラム」を開発することになりました。企画に際しては、経営層と議論を重ね、当社のフィロソフィに基づき、PQ(Personal Quotient -人格)を磨くためにIQ(Intelligence Quotient-知性)・EQ(Emotional Quotient-心身の健全・優しさや思いやり)・SQ(spiritual Quotient-向上心・挑戦心)を高めていく1年間のプログラムを策定しました。研修に参加するメンバーは、グループ会社の社長や役員推薦で募り、人事で確認し、総合的に15人に絞り込みます。管理職が対象で、研修を通じて少なくとも1〜2階級の昇格と、将来的に経営を担う人材を育成していくことが狙いです。
――ワンダーウーマン研修の具体的な内容をお教えください。
約1年間で約10回、原則集合型で研修を行い、最終回は淡路島での合宿研修です。現在、第9期生がプログラムに参加しています。
序盤はアピアランスの研修(メイクや装い・スピーチやプレゼンテーション方法の習得)、キャリアの棚卸し、目標設定などを行います。中盤では経営数字の読み方など、上級マネジメントに必要なスキルを学びます。ここでは、研修生自身が必要な学びを得るために外部研修に出向き、そこで得た学びを基に、研修生自らが講師となって他の研修生へ講義をするという方法で行っています。この仕掛けにより、自律的な学びの習慣化やナレッジシェア、そして人に伝える事を通じた学びの定着化につなげることができていると感じています。終盤は、社会課題に対する研究や考察、改善に向けた企画提案を経営層に対して行います。今期は、当社CEO・COOはじめ計19名の役員が講師を努めました。経営層が関わっている領域について研修生が提案を行い、フィードバックを受けることなどを通して、考え方を吸収できるような仕掛けを心がけています。
研修開始当初には実施していなかったアピアランス講座は、自分自身をプロデュースする目線の必要性を感じ導入しました。性差で特徴を一括りに表現するのは難しいところがあるのですが、総じて、能力や実績が同程度でも管理職志向は男性の方が高く、女性は自己評価を謙虚にとらえる方が多いように感じます。このような課題を解消するために、めざすリーダー像やなりたい姿に近づくためのツールとして、メイクや装い、立ち居振る舞いの見直しを行っています。研修序盤にもってくることで、1年を通じて取り組んで習慣化し、なりたい自分に近づくことを促しています。
最終回の淡路島合宿では、当社が成長分野と位置付けている地方創生・観光ソリューション領域についての提案や、経営層との意見交換を行います。地方創生・観光は、日頃、人材関係の仕事をしている人にとっては遠い領域ですが、自分たちが培ってきた目線やネットワークでどのように貢献できるかを考えます。自分の専門外の事業も自分ごととしてとらえてキャッチアップし、俯瞰した経営者目線を養うことも目的の一つです。

――研修を通じた成果について、女性役員数の増加や意識の変化など、具体的にどのようにとらえていますか。
第8期までの研修生のうち、3名がグループ会社の社長、24名が執行役員、14名が副役員となり、54名が上位責任者に昇格するなど成果を上げています。従業員全体に占める女性の割合は53.9%、全管理職に占める女性の割合は50.2%、取締役および執行役員に占める女性の割合は26.8%と、多数の女性管理職・女性役員が活躍しています。9期生15名のうち、半数がお子さんを持っている管理職です。多様なロールモデルが出てきていることで、お子さんのいる女性も当たり前に管理職をめざすという意識が根付き、産休・育休後の復職にあたっても元のポジションに戻るのが自然という風潮になっています。
ワンダーウーマン研修をはじめとする女性活躍や両立支援に向けた取り組みは、アンコンシャスバイアスの軽減、男性育休取得推進などにもつながっています。2021年に「アンコンシャスバイアス調査」を実施したところ、パソナグループ社員は、世間と比較して無意識的な差別意識が低い傾向が見られました。当社の男性の育休取得率は、2024年度は77.1%、平均取得日数は86.1日です。
――取り組みを進めるうえで、苦労した点をお教えください。また、長く取り組みを進める中で、変えていった点などがあればお教えください。
修了生が然るべきポジションに着任していき、数値的には確かな実績が出ています。次期で第10期の節目を迎えますが、新たなポストがどんどん広がっているわけではないこともあり、数値だけを追うと今後の成果は鈍化していくことになります。しかし、大切なのは一人ひとりのPQ(Personal Quotient -人格)を高め、次世代に向けて人材の裾野を広げていくことです。その点は絶えず経営層とも認識を合わせ、継続的に取り組みを続けていく必要があると感じています。
また、これまで培ってきたパソナグループらしい育成は継承しつつも、より経営感覚を磨くという面では、会計の知識やDX領域などのスキル面での学習を強化する必要性も感じます。女性活躍の土台がある程度できているからこそ、次世代リーダーとして必要なさまざまなリテラシーの学びを促していくことが課題です。
――今後D&I推進において特に力を入れていきたいことをお聞かせください。
社外のお客様からよく「社員同士とても仲が良いですね。企業理念やフィロソフィが浸透されていますね」と言っていただきます。価値観が共有できていることは、当社の最大の強みだと感じており私にとっても誇りです。一方で、従業員一人ひとりが、社会のさまざまなことにもっと関わっていくことも大切だと感じています。世の中の変化のスピードが速い中、「井の中の蛙大海を知らず」とならないよう意識し、会社としても個人としても取り残されないように、自らが力を高めていく風土をつくっていかないといけません。このことは、D&I推進の観点からも大切だと考えます。仕事で得られるスキルもあれば、家庭で得られるスキルもあります。それらが分断されることなく、個性を埋没させずに、お互いに貢献しあい、社会に役立てていくこと。当社ではこのことを「Social Work Life Balance」と表現しています。一人ひとりがそれぞれの個性や得意なことを磨き続け、それが称賛される仕組みや風土をつくっていきたいです。