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Kansai D&I News
2026.1.29 オピニオン

今、企業に問われる意思決定の多様性
――大阪ガス執行役員  門脇 あつ子 氏

大阪ガス執行役員 門脇 あつ子 氏

大阪ガス執行役員
門脇 あつ子 氏

大阪ガス執行役員の門脇あつ子さん。入社以来、女性が少ない環境の中、さまざまな部署でキャリアを重ねてきた。門脇さんにこれまでのキャリアやD&Iに関する考えを聞いた。

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――これまでのキャリアとターニングポイントとなった出来事をお教えください。

 入社後、まずガス機器の商品開発部門に配属されました。その後、導管部門業務改革リーダー、全社技術戦略マネジャー、情報通信部長を経て執行役員となり、京都リサーチパークの社長に就任。現在は京都地区統括支配人を務めています。

 ターニングポイントとして具体的な出来事を挙げるのは難しいですが、時期で言うなら、情報通信部の部長になった時です。部長になると対外的な契約を結べるようになります。それまでは社内の一組織を担っている意識でしたが、部長になって初めて会社を代表するという立場を認識したことで視野が広がり、物事を見る視点が上がりました。

 私が情報通信部にいた4年間は、前例のない出来事の連続でした。2017年のガス自由化の流れでグループ内の情報システムを分割するために大型のシステム投資をしていた時期であるうえ、2018年の大阪北部地震や台風による被害、さらに2020年の新型コロナという未知の事象が重なりました。前例がない中、大阪ガスが置かれている立場、情報通信部としてすべきことなどをその時々で考えて判断していくことが続き、自分が鍛えられる経験でした。

――これまでのお仕事やご経験のなかで、共通してご自身が大事にされている考え、信念をお教えください。

 自分の経験から大切にしていることの一つは、大局観を持つことです。導管部門で業務改革のプロジェクトリーダーをしていたとき、サプライチェーンマネジメントを整備するため、多くの違う業界の方々と接しました。業界や会社によって慣習やスピード感も異なり、さまざまな利害関係もあるなか、目先のことだけを見ていると意見が対立することもあります。しかし、その仕事のめざすところ、会社としてやるべきこと、社会からの要請などに視点を上げていくことで、互いの共通点を見出しやすくなり、ここは譲れないというポイントも定まってきます。多くの利害関係者をまとめていくには、全体最適でベストなところに着地させ、結果として皆が良くなるということを説き続けないといけません。幸いそのプロジェクトは成功し、自身の成功体験としても、合意形成において大局観を持つことを大事にするようになりました。

 もう一つは、時間効率です。業務においては、限られた時間の中で最大の成果を出すことが大事だと思っています。時間をかければより良いものができるかもしれませんが、安いコストで高いパフォーマンスを出すことを重視しており、迅速に、効率的にやることには大きな価値があります。昔は長時間労働が当たり前の風潮もありましたが、私自身は子供がいたこともあり、絶対にこの時間までには会社を出ると決めて時間効率を優先した働き方をしていました。

 会社の先輩の教えで心に残っていることもあります。仕事においては「考える」「実施する」「伝える」という三つのフェーズがありますが、この三つは1対1対1であるべきだと。皆、考えて実施するところまでで満足して、「伝える」ことを蔑ろにしがちです。それでは不十分で、届くべき人に伝わってこそ仕事といえます。お客さまだけでなく、同僚、上司、パートナーシップの連携先に対しても、自分が考えて実行したことは、きちんと伝えることが大切です。「言う」ではなく、「伝わって」こそ仕事だということは、とても大事にしています。

――多様な人材が活躍し、会社の成長に繋げていく組織をつくるために何が必要だと考えていらっしゃいますか。また、実際に新しいビジネスを生み出すうえで、多様な人材が果たす役割をどのようにとらえておられますか。

 この会社で長く働く中で、私個人の感覚では、女性だから働きにくいとか、一方的に不利だと感じたことはなく、むしろ女性だから名前を憶えてもらえるという利点もあり、チャンスイーブンと考えていました。ただ、会議等の場では唯一の女性であることが多く、私の意見が女性の意見を代表するかのようにとらえられることには違和感がありました。常々「私は女性の代表じゃありませんが、こう思います」とはっきり言っていましたが、女性でも人によって考えが異なるのは当然です。それを組織として体感してもらうためには、意思決定の場にある程度の数の女性が必要だとは感じています。

 人材の多様性は重要です。コロナの前後で、社会は劇的に変わりましたが、大きな変化がいつ来てもおかしくない時代に、同じような大学を出て一斉に入社し、一つの会社で似たようなポストにいる人たちばかりで意思決定をしたら、判断を誤るリスクが生じてしまうのではないでしょうか。男女、世代、国籍、業界、関東と関西など、さまざまな違いや異なるバックボーンを持つ人が社内にいることが、組織として大きな変化に柔軟に対応していくためには必須だと感じています。

 多様な人がいると意思決定は難しくなるかもしれませんが、そこを決定するのがリーダーの仕事です。全員が納得する答えはなかなかありません。先ほどの大局観にもつながりますが、なぜ今回はあなたの意見を取り入れずにこの意見を取り入れたかといったことを、きちんとストーリーづけて説明できる人がリーダーであるべきであり、社長という立場になってみて、それがとても難しいことだということも実感しました。今の時代においては若者が自分で仕事を選ぶようになっているので、一緒に仕事を進めていくには、きっちりとした説明をし、納得感を得ることが大事だと思います。

――今後、門脇様が力を入れていきたいことをお聞かせください。

 大阪・関西万博のガスパビリオンで、我々は水素とCO2から合成するe-メタンという次世代のエネルギーを紹介する良い機会をいただいたのですが、エネルギーのことは難しい、よくわからないという方も多いので、少しでも多くの方にエネルギーに興味を持っていただけるような活動をしていけたらと思います。不透明感が強い時代において、エネルギー会社が社会から求められることも変化してきていますが、究極の使命は長期安定供給だと考えます。そのために日本という島国がどういうエネルギーの選択肢を持つべきか、特に、若い次世代の方々に、数十年先を見据えた目線で考えていくことが大切だとお伝えできればと思います。

――働く女性やD&I推進に関わる方へのメッセージをお願いします。

 講演の時によくご紹介する、イギリスの故マーガレット・サッチャー元首相の言葉があります。「考えは言葉となり、言葉は行動となり、行動は習慣となり、習慣は人格となり、人格は運命となる」。悩んで何をしたらいいかわからない時も、全ての始まりは自分の考えです。自分の考えを、勇気を持って言葉にして行動しているうちに、周りの人が見てくれている。行動を続けるうちにいつの間にか自分の人格が作られ、それが運命を決めていくというのは、長く働いていて実感していることです。最初から運命が決まっているわけではありません。大きな社会課題に向き合うときも、自分の考えに従って小さなことから始めることで、それがいつしか大きな変化につながっていきます。そこに男女差や国籍は関係ありません。一人ひとりがそのように考え行動することで、皆が気持ちよく働ける世の中になっていくと思います。