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Kansai D&I News
2026.2.27 企業の取り組み最前線

数字で経営層と危機感を共有
労働人口減少に立ち向かう 竹中工務店のDE&I推進

竹中工務店 経営企画室DE&I推進部長 谷地 富美子 氏

竹中工務店 経営企画室DE&I推進部長
谷地 富美子 氏

労働人口減少が見込まれるなか、経営課題としてDE&Iに取り組んでいる竹中工務店。経営企画室DE&I推進部長の谷地富美子さんに、これまでの取り組みや今後の展望について聞いた。

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――竹中工務店のDE&Iに関する基本的な考え方をお教えください。

 当社のDE&I推進の根底には、「本気で取り組まないと、組織として、会社として成り立たなくなる」という危機感があります。今後ますます人手不足が予想されるなか、社員全員に活躍してもらうことが欠かせない状況です。世の中がダイバーシティ推進の流れだからという「きれいごと」ではなく、取り組まなければ組織が成り立たず、思うように事業を進めることができなくなる。これが経営層の認識です。

 女性の活躍に関する施策等はかなり以前から行っていますが、もう女性だけが対象というフェーズではありません。さまざまな制約のあるなしに関わらず、全員が活躍できるようにしなければならないと考えています。

――経営層にDE&I推進の必要性、危機感を伝えるためにこれまで取り組んできたことをお教えください。関連して、将来的な労働力損失に関する試算を行われたとのことですが、その内容をお聞かせいただけますか。

 建設業界における労働時間の上限規制、いわゆる2024年問題に向けての施策を打つ一方で、それとは切り分けて、もう少し中長期的な目線で働き方について考えようということになり、2023年4月に、社長を委員長として経営層が話し合いをする「ワークライフバランス中央委員会」ができました。その中で有識者の先生に、なぜダイバーシティ経営が必要なのかを人口構成等のデータを示しながらレクチャーしていただきました。研修のあと「うちのデータはどうなんだ」という話になり、人事室が作っていたデータを経営層に見せて説明しました。25〜35歳ぐらいの社員のうち男性6割、女性4割が子供を持つと想定します。男性の育休取得率が50%で期間は3ヵ月、女性の取得率は100%で期間が1年だと仮定すると、1年間でこれくらい労働損失があります、と。さらに男性の75%が半年の育休を取るとどうか。そういった試算を見せたことで、経営層も「こんなに人が足りなくなるのか」と危機感を持ち、DE&Iを推進していかなければいけないという意識の強化につながりました。

――2024年にDE&Iに取り組む部門として、経営企画室にDE&I推進部を新設したとのことですが、その経緯をお聞かせください。また、DE&I推進部が人事ではなく経営企画室内にあることの利点をどうとらえていますか?

 前述のように「DE&Iを経営課題としてきちんとやっていこう」という話になり、もう人事だけで取り組むべき課題ではないという認識から、DE&Iに取り組む部門を人事室ではなく経営企画室に新設しました。経営企画室にあるメリットはいくつかあります。私も以前に1年間、人事室のダイバーシティ推進担当でしたが、制度づくりも配置も人事が行うため「ダイバーシティは人事の仕事」になってしまい、皆さんが自分ごとととらえてくれないと感じていました。また人事という制度の設計・実運用を担う部隊にいると、「これを実行するにはどんな制度設計が必要で、その後どう運用設計をし管理すればいいか」を先に考える必要があるので、思い切った発想での施策の方向性を検討しにくくなりがちです。経営企画室に移った今はDE&I推進の旗振り役として、皆さんの意見を聞いて施策としての方向性を立て、具体的な実現に向けての制度設計・企画検討と運用検討に落とすところで人事などにお願いするといった形で、全体を俯瞰して進められるようになったのはよかった点です。課題によって、DE&I推進部が進めることもあれば、人事室や各職能の部署と一緒に取り組むこともあります。

 例えば、聴覚障がい者の方々から、館内放送を見える化してほしいとDE&I推進部に要望がありました。特に、災害時についての対応は、従業員の安全確保のために会社として必ず対応していかなければならない重要事項です。今まで、聴覚障がい者は電話を使用する機会が少ないだろうということから(これもアンコンシャスバイアスかもしれませんが)業務用スマートフォンを会社から貸与していませんでした。しかし、離席していてもスマートフォンを持ち歩くことで情報を取得でき、また音声認識ツールをインストールすることで、救助時等のやりとりに有効であること、バイブレーションで着信を認識可能であることから、希望者には貸与することとなりました。この一連の仕組みづくりを、通信機器を管理している総務室と障がい者情報を持っている人事室と協働で行いました。そして、スマートフォン貸与の手続き等の実務は各本支店の人事部、総務部が対応をしてくれています。

――現在注力しているDE&I施策をお聞かせください。

 男性育休が取りやすいような取り組みを行っています。絶対に全員が取るよう推進するわけではなく、取りたい人が取得できることを大事にしています。まず、本人や配偶者の妊娠がわかった時点で申し出てもらい、上長同席の上でオンライン説明会を行います。なぜ育休が必要なのかという話から、会社の制度、社外サービスの紹介、評価や社会保険料のことなどもお伝えし、持ち帰って家族で話し合ってもらいます。その結果を、会社は全力で応援するというスタンスです。その成果か、男性育休取得者は増えており、2025年12月末で47.6%、取得日数は平均53.5日です。男性がきちんと育休を取ることは、配偶者の女性の職場復帰を早めることにもつながります。ただ、育休で抜けた人の仕事をどうするか、人的な補充などの対応については、早期に育休取得を申し出てもらうことで解決を促すようにしていますが、まだ課題がある状況です。

 障がい者雇用については、雇用率といった数字ありきではなく、働きやすい環境づくりをめざしています。当事者だけでなく、一緒に働く上司や同僚の声も聞き、それぞれの現場での工夫などを集め、障がいのある方々と働くための土台づくりができるサポートブックを作りたいと思っています。

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――今後DE&I推進において特に力を入れていきたいことをお聞かせください。

 バブル世代が定年を迎える中、シニア世代にモチベーションを維持しながら活躍していただくことは大きな課題です。当社は2022年に65歳までの定年延長を実施しました。57歳または60歳でライン長からポストオフし、メンバーになるなど役割の変化がある方もいますが、その後、どのように働きたいかは人それぞれです。これまで頑張ってきて、仕事以外の自由な時間を楽しみたいという人がいるのも当然です。ただ人手不足の中、会社としてはできるだけ力になっていただきたいと思っています。

 また、みんなが働きやすい職場づくりという点からも、障がい者やLGBTQなどの課題が、「当事者と会社の問題」という受け止めにならないようにしていかなければなりません。

 DE&I推進は、まず早急に対応する必要のあった女性や、若者を対象とした取り組みに重点が置かれてきましたが、さまざまな制約のあるなしに関わらずみんなが対象だということ発信し、取り組みを進めていきたいと思います。