労働安全衛生法、労働施策推進法、女性活躍推進法、健康保険法、厚生年金保険法などの一部改正案が、昨年3月に開催されました第217回通常国会において可決・成立しました。本稿では、そのうち2026年度内に施行が予定される主な法改正について、企業として押さえておくべきポイントについて確認したいと思います。
2026年度中に施行される主な法改正等(予定を含む)
<図表>
| 施行月 | 項目 | 概要 | 根拠法・関連法 |
|---|---|---|---|
| 2026.4 | ①子ども・子育て支援金の徴収開始 | 健康保険料と合わせた形で子ども・子育て支援金を徴収 | 健康保険法 |
| 2026.4 | ②男女間賃金差異・女性管理職比率の情報公表 | 従業員101人以上300人以下の企業に対し、男女間賃金差異と女性管理職比率の情報公表義務化 など | 女性活躍推進法 |
| 2026.4 | ③在職老齢年金の見直し | 在職老齢年金の支給停止となる収入基準額を51万円から65万円に引き上げ | 厚生年金保険法 |
| 2026.7 | ④障害者法定雇用率の見直し | 障害者法定雇用率を2.7%に引き上げ | 障害者雇用推進法 |
| 2026.10 (予定) |
⑤社会保険料の負担割合変更による被保険者の負担軽減 | 社会保険の適用拡大に伴い加入する一定の短時間労働者に対し、社会保険料の負担を軽減できる措置の創設 など | 健康保険法 厚生年金保険法 |
| 2026.10 (予定) |
⑥カスハラ対策義務化 | カスタマーハラスメント対策を義務化 | 労働施策総合推進法 |
| 2026.10 (予定) |
⑦就活セクハラ対策義務化 | 求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策の義務化 | 男女雇用機会均等法 |
①子ども・子育て支援金の徴収開始(施行月:2026年4月)
2024年に成立した、改正子ども・子育て支援法で、児童手当の拡充など、少子化対策に充てるために、子ども・子育て支援金制度が創設されました。その財源として本年5月支給分の給与から、健康保険料と併せて、同支援金を被保険者から徴収することになります。
被用者保険(協会けんぽ・健康保険組合・共済組合)の2026年度の料率は0.23%になりますが、支援金率は、2026年度から2028年度にかけて0.4%程度まで段階的に上がることが想定されます。
参照:https://www.cfa.go.jp/policies/kodomokosodateshienkinseido
5月支給分の給与から、控除額が変わりますので、事前に従業員に支援金の趣旨や控除額について周知しておく必要があります。
②男女間賃金差異・女性管理職比率の情報公表(施行月:2026年4月)
2026年3月31日までとなっていた法律の有効期限が、2036年3月31日まで延長されました。
2022年7月に、常時雇用労働者数が301人以上の企業に対して、男女間賃金格差の情報公表が義務づけられましたが、それが、常時雇用労働者数101人以上の企業にも拡大適用されます。また、新たに女性管理職比率についても101人 以上の企業に公表が義務付けられます。
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001620180.pdf
情報公表項目を公開して求職者にアピールすることが、採用活動を進めるうえでも有効です。「公表」は、単なる義務ではなく、企業価値向上・採用力強化の機会ととらえることが重要です。
③在職老齢年金の見直し(施行月:2026年4月)
老齢年金制度とは、老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額([当該月の標準報酬月額]+[その月以前1年間の標準賞与額の合計]÷12)の合計額が支給停止調整額を超える場合には、その超える額の2分の1相当の老齢厚生年金が支給停止となる制度です。この支給停止調整額が現在の51万円から65万円に引き上げられます。
在職老齢年金の見直しが行われたことにより、年金を受給しながら働く高齢者も、できるだけ就業調整を行わずに働いてもらえるよう周知、協力を求めることで高齢者の戦略的活用をはかりたいところです。
④障害者法定雇用率の見直し(施行月:2026年7月)
現在、2.5%の法定雇用率(対象となる企業規模40人以上)が、2.7%(対象となる企業規模37.5人以上)に引き上げられます。障害者雇用義務の発生する範囲が広がり、より多くの企業で対応が必要となります。不足が見込まれる場合は、ハローワーク等と早期に連携して採用計画を立てることが求められます。
⑤社会保険料の負担割合変更による被保険者の負担軽減(施行月:2026年10月予定)
短時間労働者(パートタイマー)は、①厚生年金保険の被保険者の総数が51人以上の企業(特定適用事業所)で勤務、②所定労働時間が20時間以上、③月額賃金が8万8千円以上(年額106万円)、④2ヵ月を超えて働く予定があること、⑤学生ではないこと、のすべてを満たすと、社会保険の被保険者となります。①の企業規模の要件について、2027年10月から2035年10月までの段階的に規模要件が引き下げられ、廃止されます。
また③の賃金要件については、2026年10月から賃金要件(月額8.8万円以上)が撤廃される予定です。これにより、いわゆる「106万円の壁」がなくなり、収入の多少にかかわらず、週20時間以上働く短時間労働者は社会保険の加入対象となります。
この改正の結果、社会保険の負担を回避するため、20時間未満の就労を希望する短時間労働者が出てくることも懸念されます。そこで、社会保険の加入拡大の対象となる短時間労働者を支援するため、特例的・時限的(3年間)に保険料負担を軽減する保険料調整の措置がとられます。対象は、従業員数50人以下の企業などで働き、企業規模要件の見直しなどにより新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者であって、標準報酬月額が12.6万円以下である方です。基本的に、社会保険料は労使折半(事業主と被保険者が半分ずつ負担)ですが、この措置の利用を希望する事業主は、事業主の負担割合を増やし、被保険者の負担を軽減できます。その際、事業主が追加負担した分については、その全額を制度全体で支援します。
参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00021.html
先にも触れたように、社会保険の加入要件が引き下げられると、「働き控え」につながる可能性も考えられます。特に飲食業や流通業など人手不足が深刻な業種では、好ましいことではありません。保険料の負担が発生する一方、厚生年金が給付されることで将来の年金額が増えること、国民健康保険に加入している方には、傷病手当金や出産手当金といった国保にはない給付が受けられることなどのメリットを理解してもらい、就労時間に自ら制限を課すことのない働き方を選択してもらうことを促すことが重要です。
⑥カスハラ対策義務化(施行月:2026年10月予定)
厚生労働省は、カスタマーハラスメント(カスハラ)を「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が 従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境を害すること」と定義しています。
顧客等からの行き過ぎた行為(ハラスメント)から従業員を守ることが、企業の安全配慮上の義務とされました。企業に求められる具体的な対応としては、他の職場のハラスメントと同様、①事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発、②相談体制の整備・周知、③発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置という内容が中心となると思われます。現在、第87回労働政策審議会雇用環境・均等分科会において、「職場におけるカスタマーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」が検討されており、参考になります。
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001595720.pdf
施行日を待たずに、自社独自のカスハラへの対応マニュアルの整備が急がれます。併せて、カスハラに該当する言動を社内で共有することや、従業員の接客スキル向上のための研修を行うことなどもカスハラ予防対策としては有効です。
⑦就活セクハラ対策義務化(施行月:2026年10月予定)
職場のセクシュアルハラスメント(セクハラ)の防止措置は、男女雇用機会均等法に定められていますが、それに加え、就職活動中の学生など求職者に対するセクハラについても雇用管理上の措置義務が事業主に課せられます。近年の就職活動・採用活動においては、専門的な知識を有する人事担当者だけではなく、採用の現地化が進み、採用に関する知識を持たない従業員が直接求職者と接する機会も増えており、そこでのトラブルが散見されるようになりました。こちらも、第87回労働政策審議会雇用環境・均等分科会において、「求職活動等におけるセクシュアルハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」が検討されており、参考になります。
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001595722.pdf
自社独自で、求職者と接する際のルール(個人的な連絡先の交換はしない、飲食を伴う面談は行わない、面談の申し込み・事後の結果報告など)を決めておくことが求められます。今日のSNS社会では、求職者へのセクハラがあればまたたく間に広く世間に拡散され、企業全体のイメージダウンにつながります。ハラスメントは当事者だけの問題ではなく、組織的な対応が必要です。
今後施行が予定されている法改正等
施行日が2026年度以降で施行が予定されているものとしては、ストレスチェック実施の企業規模の撤廃があります(2028年6月頃までに施行予定)。メンタルヘルス不調の未然防止である一次予防の一環として導入されている「ストレスチェック」は、現在のところ50名未満の事業場は努力義務ですが、法施行後はすべての事業場に実施が義務付けされます(労働安全衛生法)。50名未満の事業場は労働基準監督署への報告義務はありませんが、高ストレス者に対する面接指導は行わなければなりません。
また、⑤でも述べましたが、社会保険の加入対象が段階的に拡大されます。それに加え、雇用保険の加入対象要件も現在の週20時間以上から10時間以上に引き下げられます(2028年10月、雇用保険法)。
今回は取り上げられなかった改正法もありますが、今般の法改正の方向性としては、多様な働き方を前提に、働く人の保護強化や、企業に説明責任を求めることで生産性の向上につなげようとする意図が見受けられます。企業としては「法律で決まっているから」といういわば「後ろ向き」な姿勢ではなく、法改正をきっかけとして、働く人の成長と企業の発展につなげるという考え方で前向きに取り組んでいただければと思います。
【引用・参考文献】
田中朋斉・石嵜大介「これから施行・改正される法令のポイントまとめ」『労政時報』第4109号25.11.28

≪執筆者プロフィール≫
八木 裕之(やぎ ひろゆき)
特定社会保険労務士。産業カウンセラー。キャリアコンサルタント。
1962年大阪生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士課程前期修了。民間企業の人事部門、コンサルタント会社勤務を経て独立。大阪労働局労働関係紛争担当参与、大阪商工会議所専門相談員。日本労務学会、日本労働法学会会員。