
奈良先端科学技術大学院大学
谷口 直也 特命助教
大学院卒の留学生を多く社会に輩出している、奈良先端科学技術大学院大学。教育推進機構キャリア支援部門の谷口直也さんに、外国人材の就職支援の取り組みについて聞いた。

――奈良先端科学技術大学院大学の特徴をお教えください。
専門的な研究教育に特化した、学部をもたない大学院のみの大学です。情報科学・バイオサイエンス・物質創成科学の3領域と、その融合分野における高度な先端技術の研究に取り組んでいます。約1,200人の学生のうち約330人が留学生で、留学生の割合は修士課程で約20%、博士課程で約50%となっています。
――貴学での留学生就職支援において、特徴的な取り組みをお教えください。
日本人学生の多くは修士課程修了後に就職するのに対し、本学の留学生はほとんどが博士課程に進学します。博士課程から入学するケースも多いです。よって留学生への就職支援としては、博士人材を企業にどうマッチングさせるかという取り組みが特徴です。学生の希望に応じて、国内企業・海外企業問わずにマッチングをはかります。一方で国や大学の方向性としては、日本の産業界に貢献できる人材の輩出を求められている面があります。
本学では、留学生の受け入れから入学後の教育・研究まで、英語で学位取得可能な体制を整えており、留学生の日本語レベルはさまざまです。そこで2016年頃から、英語対応の留学生キャリア相談枠を設けました。また、留学生のキャリア支援に特化した専門的業務や就職活動の伴走支援を行う常勤職員がいることも、本学の特徴の一つといえます。また、多様な留学生をサポートできるよう、海外在住経験や外資系企業勤務経験のある元研究者、元起業家、外国籍など、さまざまなバックグラウンドを持つキャリアアドバイザーを配置しています。カウンセリングだけでなく、キャリアアドバイザー自身が企業に足を運んで学生を紹介するところまで担っているのも特徴です。学生一人一人の特性を細やかに伝えられる関係性の中で、複数年にわたって学生を採用していただいている企業の例もあります。
――留学生への就職支援において、日本人への支援と異なる点や難しい点などがあればお教えください。
日本での一般的な就職活動になじみがない学生がほとんどなので、入学前からオンラインでキャリア面も含めたガイダンスを行っています。日本人学生への支援との最も大きな違いは、やはり言葉の問題です。99%の日本企業で日本語能力を求められる現状がありますので、日本での就職を希望する学生にとっては日本語の習得が課題となります。一方で企業の皆様に対しては、少子高齢化の進む日本において、今後日本人だけの採用では一層厳しさが増していくこと、そして優秀な人材であれば日本語能力を前提としない採用方式を取り入れることなど提案させていただいています。
難しい点の一つは、学生側の課題だけでなく、企業側のこれまでのご経験やご判断が大きく影響する点だと感じています。実際に、外国人材の採用に真摯に取り組まれた企業であっても、コミュニケーションや定着の面でご苦労されたケースがあると、その経験が強く印象に残り、「受け入れには一定の難しさがある」という認識につながることもあります。これは決して特別なことではなく、多くの企業が試行錯誤の中で直面されている課題だと認識しています。
そのため、私たちの支援は単に学生を企業にご紹介するだけではなく、企業の皆様がこれまで積み重ねてこられたご経験やご懸念にも丁寧に向き合うことを大切にしています。「どのような点で難しさを感じられたのか」「どのような環境であれば力を発揮できるのか」を共に考え、より良い形で次につなげていくことが重要だと考えています。
――関西で活躍している卒業生の事例をお教えください。
2016年頃に全学的な留学生のキャリア支援を始めた頃から、留学生に関心の高い企業と留学生がカジュアルに交流できる企画やイベントを毎年行っています。そうしたイベントをきっかけに、最も早く博士課程留学生を採用してくださったのが、ロート製薬様でした。その後、外国籍採用を本格化され英語も交えた選考を実施、本学留学生に限らず毎年外国籍の人材を採用されています。
大手企業だけでなく、大学発ベンチャー企業をはじめ、関西圏に位置する複数のスタートアップ企業にも人材を輩出しています。例えば、ロボティクス分野のスタートアップにおいては、日本語が十分でない段階であっても、専門性や人物面を高く評価されて採用に至ったケースもあります。さらに近年では、奈良県内企業において外国籍博士学生が採用された事例も生まれています。専門分野での知見を活かすだけでなく、海外営業やマーケティング支援といった領域でも活躍が期待されており、博士人材の新たな可能性を示す事例となっています。このように関西においても、企業規模や業種を問わず、留学生・外国籍博士人材の活躍のフィールドは徐々に広がりつつあると感じています。
――さまざまな取り組みを進めるなかでの課題と今後力を入れていきたいことをお教えください。
課題はやはり言葉の問題です。どんなに企業の英語対応が広がったとしても、日本で生活し仕事をする以上、一定の日本語能力は習得しているべきだと私は考えています。日本での就職を希望するなら、できる限り日本語力を伸ばすことは学生の課題であり、日本語教育をどのようにサポートするかは大学の課題でもあります。一方で、日本語人材だけに絞って採用を続けることに危機感を持たれる企業も増えてはいるので、大学としては留学生の存在価値やその魅力、そして英語人材の採用から定着までの実績を企業の皆様に知っていただくことが重要だと考え、その普及活動に力を入れています。
専門性の高い留学生の存在や博士人材の意義を企業に知ってもらう取り組みとして、産官学連携によるオンラインサロン『外国籍博士人材の採用・育成サロン』を、2026年4月に始動させる予定です。これは昨年、内閣府が主導する第3期の大学支援フォーラム PEAKS実証事業※の中で本学が提案した全学戦略の中の一アイデアから始まったもので、同じ課題意識を持つ沖縄科学技術大学院大学(OIST)と共に体制づくりを進めています。現在、全国の10大学が会員として参加し、外国人材の採用に関心を持つ企業が疑問や課題をシェアできるオンラインサロンを計画しており、企業会員の入会を随時受け付けています。大学の横連携によって、マイノリティに見られがちな博士課程留学生の存在感や価値を示していく狙いもあります。
※PEAKS実証事業・・・地域中核・特色ある研究大学を⽬指す大学において、内閣府が伴走⽀援を行うと共に、横展開可能なノウハウ(「ノウハウ集」)を抽出し普及をはかり、日本の研究大学のさらなる成長をはかることを目的とした事業。
――企業に対し、期待することや改善を望む点があればお聞かせください。
まずは、気軽に留学生との出会いの場に来ていただきたいと考えています。本学では、企業と留学生が直接交流できる機会を日英で設けておりますが、実際に顔を合わせてみると、互いの語学レベルが違っても意外に意思疎通ができるんだな、と実感いただけるケースが多くあります。昨年は東京・関東圏の企業の皆様に多くご参加いただきましたが、今年は関西圏の企業様にもぜひご参加いただきたいと考えています。
また、あえて申し上げるとすれば、不採用となった場合のフィードバックについて、可能な範囲でご配慮いただけると大変ありがたく感じております。これは日本人学生にも共通する点ではありますが、選考結果のみが伝えられる状況では、次に向けた改善の方向性を見出すことが難しい場合があります。特に留学生にとっては、異なる文化・言語環境の中で就職活動に取り組んでいることもあり、理由が分からないまま不採用となることが心理的な負担につながるケースも少なくありません。例えば簡易的なコメントや評価観点の共有など、可能な範囲でのフィードバックをいただけることで、学生が自らの課題を認識し、次の活動に前向きにつなげていく大きな助けになります。
――最後にメッセージをお願いします。
本学は昨年、文部科学省の地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)に採択され、研究大学としての機能強化と社会実装の加速を目的とした全学的な改革を進めています。本事業において設定した2つの戦略の内の1つが、「東南アジア諸国からの戦略的な人材リクルートと育成」です。今後日本が不可避とされる人口減少社会の中で、国内産業界の未来に貢献する国際人材の育成・輩出に尽力しています。そのため、今後5年~10年で留学生受け入れをさらに増やしていくとともに、日本企業への就職者数を倍増させる計画です。ぜひ本学の新たな取り組みにご期待いただければ幸いです。
留学生採用について、「具体的なイメージが持てない」「社内体制がまだ十分に整っていない」と感じておられる企業の皆様も多いのではないかと思います。近年の留学生が求める条件は多様化しており、必ずしも特別な支援や大きな環境整備が前提となるわけではありません。実際に、外国人材の定着に繋げておられる企業の多くは、「まずはやってみよう」というところからスタートされ、交流会やインターンシップ受入れといった段階的な取り組みを経て、採用に至っておられます。そこでは、最初から万全な体制が整っていたわけではなく、むしろ一人ひとりに丁寧に向き合い、対話を重ねながら社員との信頼関係を築いてこられた点が共通しているように感じています。本学では、株式会社アカリクと連携した「アカリクラウンジ」を設置し、学生と企業の皆様がカジュアルに交流できるコミュニティスペースもご用意しております。もし少しでもご関心をお持ちいただけましたら、まずはこうした場にお越しいただき、実際に留学生と出会い、対話していただくことから始めていただければ幸いです。
参考:文中でご紹介している『外国籍博士人材の採用・育成サロン』については、こちらから詳細をご覧いただけます。
https://www.naist.jp/oist/tri-phd