
京セラでは、全社でのDEI推進と同時に、全国各地の拠点においても独自の取り組みを行っている。ダイバーシティ推進室DEI推進課の森 麻里子さんに、各拠点でのDEIの取り組みや社内イントラでの情報発信などを中心に話を聞いた。

――貴社のDEIの取り組みについて、基本的な考え方や方針をお聞かせください。
DEI推進の目的は、すべての人がやりがいを持ってパフォーマンスを発揮し、会社の持続的な成長のために活躍できる環境をつくることです。女性のため、障がい者のためといった特定の対象への施策を見て「自分には関係ない」「マイノリティのための取り組みだ」と誤解されてしまうこともありますが、決してそうではありません。京セラでは、2019年にダイバーシティ推進室D&I推進課(現・DEI推進課)ができたときに「DIVERSITY & INCLUSION & "YOU" あなたも、ひとつの、多様性。」というメッセージを、2024年度にDEI推進課と部署名が変わった際には「DEI & "YOU" あなたと、ひろがる、可能性。」というメッセージを発信しました。これらのメッセージには、DEIは特別な誰かのためではなく、”あなた”という多様性を活かすためのものであり、違いを認め合ってすべての人が可能性を発揮する未来のために、他人ごとではなく自分ごととして考えてほしいという思いが込められています。
DEI推進の土台にあるのは、「全従業員の物心両面の幸福(しあわせ)を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する」という京セラの経営理念です。まず従業員が幸せでなければ社会に貢献できないという考えは創業時から変わらず受け継がれており、DEIに深く通じるものでもあります。その考え方は、DEI推進の部署が生まれるずっと前から京セラの中で大切に守られてきたものです。
――各拠点でのDEI推進や、社内イントラでの発信に取り組む背景と具体的な取り組み内容をお聞かせください。
全国に工場・事業所といった拠点がありますが、拠点によって働き方や従業員の特性には違いがあり、抱える課題も異なります。例えば子育て世代が多い、介護をしている人が多い、単身赴任の人が多いなどです。そこで各拠点にダイバーシティ推進委員会を設け、その拠点での社員の声が反映された取り組みがなされるようにしています。各拠点の推進委員は専任ではなく、各自の通常業務を行いつつ、例えば月一回集まって課題を話し合うといった形で主体的に活動をしています。ある工場では有給休暇の取得推進、他の工場では介護についてなど、各拠点のニーズに合わせた取り組みが活発に行われています。
製造業の京セラでは全社員の7割以上が工場勤務で、情報の取り方もさまざまです。情報が届かない人がいないよう、社内報なども含めていろいろなツールで発信していますが、その一つとして2020年に社内イントラを活用し始めました。現在は、全社員が利用しているOffice365のSharePointを活用しています。ダイバーシティ推進室からのメッセージやイベントのお知らせ、過去のセミナーのアーカイブ・資料などを載せているほか、拠点ごとにページを作っているのが特徴です。各拠点での取り組みは社内イントラで誰もが見ることができ、さまざまな取り組みが他拠点へと広がる横展開も期待しています。
――各拠点でDEI推進や、社内イントラでの発信に取り組むうえで、難しかった点や苦労した点をお教えください。
拠点によって職場風土や文化が異なる部分もあり、DEI推進に対する意識の温度差も見られます。例えば、京セラには、目標を達成するために全員で「ベクトルを合わせる」というフィロソフィがあり、つまり多様な個性がありながらも皆が共通の目標に向かって心をひとつにするということなのですが、ダイバーシティへの理解が進んでいなかった時には「皆がバラバラなことを言い出すとベクトルが合わせられなくなるのでは」という不安の声も聞かれました。また、会社から示された方針を着実に実行し、成果につなげることに慣れていたため、各拠点で自由に取り組みを進めることにも戸惑いが見られました。しかし、DEIの大事さに気づいた人から手探りで取り組みが始まり、次第に理解が広がりました。皆が納得すると取り組みは加速すると感じます。
工場で働く社員はPCを見ることが少ないという背景もあり、イントラでの情報共有にも差が出ないよう工夫が必要でした。全社員へのスマホの配付や、メルマガや朝礼発表の活用などといった取り組みによって改善をめざしました。
――DEI推進の成果をどう見ていらっしゃいますか?社内意識や満足度にどのような変化が生まれたかをお聞かせください。併せて今後の課題をお聞かせください。
すべての人に関わる重要なテーマとして2022年より「心理的安全性」の醸成に継続的に取り組んできた結果、興味を持つ人が増え、実践する人も増えました。最初は任意参加で著名人の講演会を実施したところ、「皆が聞くべきテーマだ」と反響が大きく、次の年は全社員を対象にeラーニングを行いました。また、推進リーダーを育てるために責任者向けの研修を行うと同時に、誰もが参加できる「心理的安全性コミュニティ」を立ち上げ、有志によるイベントなども生まれています。このような取り組みは、一回で終わらせず継続することが大切だと考えています。
介護についての社内アンケートも、成果が見られた取り組みでした。2024年度に初めて介護に関する任意の実態調査を行い、約7,000人から回答を得たのですが、その年に介護に関する研修(40歳以上は必須、39歳以下は参加推奨)をしたところ、2025年度のアンケートの回答者数は約15,000人に倍増し、年齢層も多様化しました。またアンケートの結果、回答者の約2割が現在あるいは過去に介護の経験があるとわかり、重要な課題だと認識しています。介護が始まっている人に向けては、相談や支え合いができるよう社内でコミュニティを立ち上げ、100人以上が参加しています。将来の介護に不安を持つ人に向けては、社会的な制度や会社としての体制を説明して安心してもらうことが第一です。介護に関わる人は今後も増えることが予想され、介護しながら働き続けられるよう取り組みを充実させていく必要があります。
今後の課題としては、DEIに関心のある層とそうでない層で、DEIについての認知度に差があることが挙げられます。一人ひとりが自分ごとにしてこそ、DEIは推進できます。目の前の業務に追われている時に、ダイバーシティの研修を受けても関心を持てないかもしれません。トップから発信してもらったり、他社と共同でさまざまなテーマのイベントを行ったりと、幅広い人が興味をもてるような形で働きかけをしています。より働き甲斐をもって生き生きと仕事をしていく上でなぜDEIが必要なのか、その人にとってどんな意味があるのかということを、丁寧に説明していくことを続けていきたいと思います。
――今後DEI推進において特に力を入れていきたいことをお聞かせください。
女性のエンパワーメントは、DEIの課題の中では古くから取り組んでいるテーマですが、課題が解決しているとはいえず、今後も取り組んでいく必要があります。また男性の育児参加促進は、社員のご家族の幸せや女性のエンパワーメントのためにも重要だと感じています。さらに、社内アンケートから課題が見えている介護についても力を入れていく必要があります。
これらの社内での取り組みと同時に、他社と共同でのイベント開催や意見交換なども行っていますが、社外に向けた働きかけにもさらに力を入れていきたいです。例えば女性のエンパワーメントにしても、社会全体としてジェンダーの意識や、法制度・社会規範など構造的要素が変わらなければ、一社での取り組みでは解決できない部分も大きいと感じます。京セラ内のDEI推進で得られた知見を自分たちの中だけにとどめるのではなく、さまざまな場所で活かせる再現性・実現力を持った共通の知見に発展させ、DEI推進の妨げとなっている社会構造を変化させていく推進力にしていきたいと考えています。