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Kansai D&I News
2026.4.28 オピニオン

誰もが輝ける社会へ 女性活躍のこれから
――三菱UFJリサーチ&コンサルティング 矢島 洋子 氏

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 執行役員 チーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(CDIO) 主席研究員 矢島 洋子 氏

三菱UFJリサーチ&コンサルティング
執行役員
チーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(CDIO)
主席研究員

矢島 洋子 氏

日本のD&Iの現状や課題、企業に求められる対応は何か。ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスに関する研究を行っている三菱UFJリサーチ&コンサルティング 執行役員 CDIO 主席研究員の矢島洋子さんに聞いた。

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――女性活躍推進法が改正され、2026年度からは、101人以上の企業で女性管理職比率や男女間賃金差異の公表が義務付けられます。企業の女性活躍に関する現状をどうみていらっしゃいますか?

 女性管理職比率や役員比率は一定程度伸びてきているものの、国が男女共同参画基本計画で掲げている「指導的地位にある女性を3割以上に」という目標にはまだまだ遠く、十分とはいえません。日本のジェンダーギャップ指数も148カ国中118位(2025年)と、依然として低い水準です。世界の中で見ると日本の女性活躍の歩みは遅いといえます。

 ただ、変化が見られる部分もあります。2009年の改正育児・介護休業法で育児短時間勤務が義務化されて以降、妊娠・出産で離職する正社員女性は減ってきました。そこで、これまでの離職防止や就業継続支援から、活躍支援へと企業の取り組みを変化させることが女性活躍推進法の趣旨といえます。活躍が進めば当然、女性管理職比率も上がることが期待されますが、それはあくまで一つの指標です。大切なのは、育休後の短時間勤務などを含めた多様な働き方が認められ、そのような働き方を選んだ正社員の仕事が正当に評価されてキャリア形成していけるということです。そういった取り組みを進めている企業は増えつつあり、女性が就業を継続しながらキャリアの展望が持てるような環境の変化は、少しずつ進んできています。

――企業の女性活躍やD&I推進における課題は何でしょうか?

 日本の社会全体において、男女の性別役割分担意識が海外よりも根強く残っていることは大きな課題の一つです。企業内でも「女性にはこの仕事は向いていない」「子供を持っている人にはこの仕事は無理だろう」といったアンコンシャスバイアスを払拭していく必要があります。多様な人材の活躍を阻むという面では、新卒一括採用で皆が同じような働き方をすることが想定されてきた従来の日本型雇用や組織のあり方、その中での評価の仕組みにもさまざまな課題があります。

 また、女性活躍の進み具合を評価する難しさもあります。指標の一つとされる女性管理職比率についても、その数値と男女間賃金差異は別の傾向を示します。例えば、女性管理職比率が高い金融・保険・医療等の業種で、男女間賃金差異が少ないというわけではありません。指標としては、全管理職に占める女性の割合だけでなく、女性社員に占める女性管理職の割合と、男性社員に占める男性管理職の割合も比べるといったことが必要です。また女性が少ない製造業等でも、グローバルに事業を展開している会社では、組織のあり方や人事制度の見直しがかなり進んでいるところもあります。女性活躍の推進状況をどのような指標で用いて評価するのか、その目的に照らして使い分けていくことも必要です。

――多様な人材が働き、活躍できる環境づくりには何が必要だとお考えですか?

 正社員は休暇をあまり取らず、残業も厭わずに常にフルコミットして働くというような従来の日本企業型の働き方は、多様な人材に活躍してもらう上でのハードルになっています。一定の働き方を前提とした評価の仕組みができており、その枠から外れた人は会社の中で責任ある仕事を任せてもらえず、キャリアの道筋を見つけるのが難しいというのは大きな課題です。出産・育児に限らず何らかの事情で一定期間休む、あるいは短時間勤務をするといった、働き方が異なる人をうまく活躍させられない職場環境は改善していく必要があります。

 プレイヤー時代に大きな成果を挙げた人が管理職に昇進するという単線型のキャリアしかないのも問題です。人や組織をマネジメントするには相当なスキルが必要ですが、プレイヤーとして優秀な人が必ずしもそういった管理職適性があるとは限りません。プレイヤー向きの人には管理職ではなく専門職キャリアを歩める道が用意されていたり、逆に育休等を取っていて大きな営業実績はなくてもマネジメントの適性がある人が管理職になれたりといった、多様なキャリアの選択肢があることが望ましいでしょう。人事制度を見直し、複線的キャリアを導入する企業も増えてきてはいますが、処遇の違いがあるなどまだ課題も多いといえます。

――D&Iを進めるうえで望ましい方策をお教えください。

 企業のD&Iを進めるにあたっては、まず課題を包括的に把握することが大切です。例えばワーク・ライフ・バランスの問題についても、「ライフ」の課題は育児や介護だけではありません。育児・介護に限らず仕事以外に何か時間を取りたいことがあり、そのために働き方を変えたい人もいます。実態を全社員へのアンケート等できちんと把握する必要があります。そのうえで、経営トップがコミットして取り組みを進めることが大事です。また、各部門でそれぞれの課題を分析し、施策を立案、実行できるとよいでしょう。そのためには、経営トップ(社長)のみがD&Iを理解し、積極的なのではなく、各部門を預かる本部長クラスの役員も、しっかりとコミットすることが大事です。

 私は2025年1月に三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「チーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(CDIO)」に就任し、まずは、従業員アンケートや部門別ヒアリングをもとに、全社計画を策定し、各部門にも課題分析・施策立案を依頼しました。具体的な施策としては、まず、育児・介護事由での長期休業や短時間勤務などの公正な運用のために、業務配分や評価・登用のあり方、サポートした周囲の社員の評価、組織目標・評価における勘案等の全職種共通ルールを設定しました。その他、全役員によるD&Iリレーコラム、昇進・昇格基準の点検と明示、ハイブリッドワークの質の向上のためのトライアル実施、育児や介護の従業員リソースグループ(ERG)の立ち上げ、ハラスメント防止や自律的キャリア形成支援を目的とした研修内容の見直しなどを行いました。2026年度は、キャリア形成支援にさらに注力し、賃金差異の分析もより詳細に行う予定です。

――今後、企業のD&Iや女性活躍推進はどのような方向に進んでいくべきでしょうか?

 女性活躍推進について、「女性の優遇ではないか」といった声が聞かれることがありますが、それは誤解です。女性活躍推進は、これまでの男女の不平等をなくすためのものです。これまで男性に比べて仕事の機会を与えられず昇進も阻まれていたという不平等を是正するために、今、過渡的に女性に積極的に機会を与える施策をとっているのであって、女性を優遇するものではありません。こういった誤解があると、女性活躍推進の動きが後退する恐れがあります。一方で、これまで男性が優遇されてきた、という事実はスルーされ続けています。私は女性活躍推進法についても検討する審議会の委員も務めていますが、女性の積極登用等のポジティブアクションに対して、その意義がきちんと理解されるよう周知をはかるべきだと提案しています。また長期的に見て大切なのは、男女を問わず多様な働き方ができ、どのような働き方を選んでも公正に評価され、キャリアを形成していけるという方向に進んでいくことです。

――企業経営者に向け、ダイバーシティ推進に向けたメッセージをお願いします。

 企業の人的資源管理において、良い人材を採用・育成し、活躍してもらうことは重要です。しかしこれまでは多くの会社で、仕事だけにフルコミットできる人を中心に一定の働き方の条件を満たした社員しか育成・登用できない仕組みになっていました。今後は、男性も含めて多様な働き方を求める人はさらに増えるでしょう。もはやフルコミットする社員だけで会社が運営できる時代ではなくなってきています。経営トップには「多様な働き方をする人材が活躍できる組織を作ることが企業の成長につながる」という考えのもとで、さまざまな取り組みを進めていただきたいです。その過程において、女性活躍もさらに推進・実現されていくはずです。