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Kansai D&I News
2026.5.29 オピニオン

女性トップマネジメント育成が 企業の成長を促進させる
――京都大学経営管理大学院 教授 アスリ・チョルパン氏

京都大学経営管理大学院 教授 アスリ・チョルパン氏

京都大学経営管理大学院
教授

アスリ・チョルパン氏

京都大学経営管理大学院は、将来の女性エグゼクティブ・リーダーを育成するプログラムを2023年から開講している。プログラムの立ち上げに関わった同大学院のアスリ・チョルパン教授に、女性活躍の現状や課題、エグゼクティブ・リーダー育成への思い等を聞いた。

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――女性エグゼクティブ・リーダー育成プログラム(WELプログラム)を始めた背景をお聞かせください。

 2022年ごろ、大学関係者が参加する会議の席で、参加者からの「企業で活躍する女性が少ないことの責任は大学にもある」という趣旨の発言を聞き、経営戦略や企業統治の研究をしてきた立場から、研究だけでなく人材育成でも貢献しなければいけないと、ある種の責任を感じました。そこで女性リーダーを育成するプログラムを作ることを思いつき、京大総長に提案して賛同を得ました。いろんな人に講師として参加してもらえるよう声をかけて快く協力いただき、企画から1年後の2023年秋にスタートしました。2025年で3期生が卒業し、約100人の修了生がいます。

 このプログラムでは、女性がビジネス上の課題や意思決定について幅広い見識を得ること、優れたリーダーになるために自分の特性や強みを生かすスキルを身につけることのほか、京都大学経営管理大学院のネットワークを活用し、連携を広げることもめざしています。

――日本の女性活躍の現状をどうみていらっしゃいますか。

 女性リーダーが活躍する上でさまざまな障壁がある状況は、日本に限ったことではありません。欧米の大学にも、WELプログラムのような女性リーダー育成プログラムが存在します。つまり、現在も多くの国で役員登用等において男女差があり、ダイバーシティを高めるための取り組みが必要な状況だということです。

 一方で、日本がその中でさらに遅れているのも事実です。2025年の数字ですが、日本の上場企業での女性役員の割合は14%にとどまっており、フランスの約45%、アメリカの約30%に比べて低い水準です。女性の社外取締役は増えてきているものの、社内の女性役員はまだ非常に少なく、日本の上場企業の中には、現在でも取締役会が男性のみで構成されている企業が存在しています。日本企業のトップマネジメント層に女性が少ない背景には、女性が企業の中で上の役職へと進んでいくラインができていない状況があると考えられます。そのような状況を改善していくことも、WELプログラムのめざすものの一つです。

――中長期的に人材を育成・登用していくために、企業に求められる取り組みについてどのようにお考えでしょうか。

 大きく二つの面で、企業が変わっていく必要があると思います。一つは、女性に機会が与えられにくい制度や慣習を変えることです。たとえば、男女で能力が同じであっても、子育て中の女性は男性に比べて勤務時間に制約が生じやすく、結果を出しにくい、海外赴任等のチャンスに恵まれにくいといった状況があります。休日のゴルフ会のような、女性が参加しない非公式なネットワークで重要な話がされることもあります。そういった機会の不平等が生じないよう、制度や慣習を変えていく必要があります。

 もう一つは、制度や慣習とも関連しますが、意識の面での改革です。人間は皆、無意識に自分に似た人を選ぶ傾向があると言われます。部下を選ぶ立場の人が男性であれば、男性を選びがちになるかもしれません。アンコンシャスバイアスの問題は、無意識だけに変えるのが難しい面があります。トレーニングなどによって意識を変え、より自覚的な行動を促していくことが求められます。組織風土の面では、まず経営トップの意識が変わるよう働きかけることも必要です。

――中長期的に女性役員比率を高めていくために、女性エグゼクティブ・リーダー育成プログラムが果たす役割をお教えください。

 WELプログラムは、役員をめざしている、または将来的に役員候補になり得る女性を対象とする育成プログラムです。経営戦略・ガバナンス等、トップマネジメントに求められる基礎的な知識のほか、ジェンダーの固定観念にまつわる問題など、女性エグゼクティブに特化した知識も修得できます。また、受講者のロールモデルとなりうる女性経営者等をメンターとして招き、コーチング・セッションを行います。プログラムを通して、講師陣や参加メンバーとのつながりも生まれ、単なる学びではなく、未来を切り拓くリーダーたちのコミュニティとなることに大きな意義や役割があると考えています。

――どのような課題意識を持ってプログラムに参加される方が多いのでしょうか。また受講後、参加者のキャリアや意思決定にどのような変化が見られますか。

 参加者の経歴や所属部署はさまざまですが、課長・部長職の40〜50代が中心です。自ら希望して参加する人もいれば、会社から推薦されて参加する人もおり、参加時点での意識や積極性には幅があるかもしれません。しかし、多くの参加者が、受講後にはさまざまな面で大きく変化します。知識を身につけて成長するだけでなく、新たな挑戦に前向きな自信や主体的に行動しようとする意欲も高まります。受講前にはあまり自分に自信を持てていなかった人も、「自分にもできるんだ」とマインドセットの変化が見られます。

 参加者からは「自分自身に足りないものや、これから向かう方向性について多くの気づきを得られた」といった声が聞かれます。「めざすビジョンが明確になり、そのビジョンを実現する上で必要であると確信をもって体制を作ることができた」という声もあり、実務上でのリーダーシップ発揮につながったという例もあります。また、WELプログラムを通じての学びを活かし、日々の活動の中で自発的に行動し、組織を前に進める役割を果たしてきたことを評価され、社内で昇進した人もいます。単に知識を学ぶだけではなく、参加者同士がお互いから刺激を受けて変化する部分も大きいと感じます。

――経営層に向けたメッセージをお願いします。

 女性リーダーの育成への投資は、単なる多様性施策ではなく、ビジネスの結果に影響するものです。ジェンダーに関わりなく人を育てて登用することは、意思決定の質を高め、イノベーションや企業の持続的成長につながる重要な経営課題です。ただし、WELプログラムを通じて女性のスキルや意欲が高まり会社に貢献したいと思っても、会社の制度や文化が変わらなければ、力を発揮できないままです。業務の中での挑戦の機会や経験の蓄積において、男女差を解消していくことが求められます。経営トップはもちろんのこと、女性が社内でキャリアアップする際に最初に接するミドル層も含め、それぞれが女性活躍の意義を理解していなければ改革は難しく、各層に向けた研修等も必要かもしれません。女性リーダーの育成・活躍を進めるために、制度面の整備だけでなく、挑戦の機会、経験の蓄積、そして社内外の支援ネットワークを広げていくことが重要です。