堀場製作所
グループ人事部人財サポート・DE&I推進チーム
チームリーダー
安井美香さん
堀場製作所では、ニューロダイバーシティ(神経多様性)推進の取り組みを進めている。グループ人事部人財サポート・DE&I推進チームの安井美香さんに、取り組みの概要や成果について聞いた。
――ニューロダイバーシティの推進に取り組むきっかけをお教えください。
2017年ごろの当社では、障害者の社員の割合が法定雇用率を下回っていました。当時は身体障害者中心の採用で、そのままでは法定雇用率達成が難しい状況でした。そのような背景もあり、身体障害の方だけではなく精神・発達障害の方の採用にも目を向け、京都府から就労移行支援事業所を紹介いただいたのをきっかけに、雇用を本格的にスタートしました。
当社では「ステンドグラスプロジェクト」としてダイバーシティへの取り組みを進めてきました。これは、色も形も大きさも違うステンドグラスのピースが、全体として見ると美しい絵になるように、従業員一人ひとりの強みや個性が重なりあい、違いを束ねることで新たな価値を生み出そうというものです。そのような「HORIBAらしさ」には、障害者雇用推進のために特例子会社を作るという形はマッチしないと考え、既存の職場に障害のある社員を迎え入れています。法定雇用率達成はもちろん大切ですが、一人ひとりが職場の中で輝き、それによって価値を創造することにつなげていきたいと考えています。
――社内合意形成、体制づくり、採用、受け入れ、定着それぞれのフェーズで難しかった点、工夫した点をお教えください。
身体障害に比べて精神・発達障害は、特性が目に見えにくいということもあり、初めて受け入れる部署での不安は少なくなかったと思います。採用にあたっては、まずは双方が自然に交流できるよう、ステップを踏むことを大事にしました。第1ステップの面談では、ご本人、紹介者の方、受け入れ部署の担当者、人事の4者で面談し、本人の得意なことや、苦手なことなどを確認します。次に2週間の実習を行い、そこで双方がマッチングすれば1か月の実習に進みます。実習終了後、お互いが納得した上で採用となります。ミスマッチを防ぐためにも、受け入れ部署には、その人が本当に特性を生かして活躍できそうか見てもらうようお願いしています。
入社後の定着支援も非常に大切です。新卒採用のように集団研修で企業理念やビジネスマナーなどを学ぶ機会がなく、同期もいないので横のつながりを作りづらく、ともすれば孤立してしまいがちです。そこで、障害者向けのワークショップや障害のある社員同士がざっくばらんに交流できる座談会を定期的に行うなどしています。そこから社員同士の部署を超えたつながりも生まれています。
――取り組みの成果をどう見てらっしゃいますか。
人事部が中心になって受け入れを開始し、体験を他部署に伝えながら体制づくりを進めてきました。現在、当社における障害者の社員は40名、身体障害と精神・発達障害でそれぞれ半数程度、配属部署も、人事、物流、生産などさまざまです。まだ全部署とはいきませんが、少しずつ受け入れが広がっており、障害者全体の勤続年数は平均で12.6年です。
発達障害の方の仕事ぶりを近くで見ると、得意分野に関しては非常に優秀で高い集中力があり、特に細かい部分のチェックが得意であると感じます。そうした強みを生かし、業務の質の向上やチームへの貢献につなげてくれています。当社では、各部署での活躍事例を社内のポータルで積極的に発信していますが、受け入れ部署側での体制づくりや教育も重要です。部署のメンバーに「障害者職業生活相談員」の資格取得や「精神・発達障害者しごとサポーター」の養成講座受講を働きかけ、資格を取得した人もいます。「この部署ではこのような受け入れ体制を整えている」といった事例や情報も社内に発信して共有しています。
――ニューロダイバーシティの推進に取り組んだことで、社員の意識や職場でのコミュニケーション等、組織内でどのような変化がありましたか。
会社全体として、ニューロダイバーシティだけでなくDE&Iへのエンゲージメントや理解度が向上しました。社内アンケートでも「DE&Iは会社にとって重要だ」と考える人が8割を超え、共生社会の風土が少しずつ会社に根付いてきています。障害のある社員からは、「もっとこうしたら働きやすくなるんじゃないか」といった改善案の発信があるなどの変化も見られます。
さらに、障害者雇用に対する現場の意識も変わってきました。以前は人事部から声をかけても慎重な反応を示す部署もありましたが、現在は「じゃあ会ってみましょう」と前向きに受け止めてくれる部署が増えてきました。
――ニューロダイバーシティの推進に関し、現在の課題と今後力を入れていきたいことをお教えください。
課題は二つ大きくあります。一つは、発達障害の方で、就労経験のない新卒入社者の定着をどう強化していくかです。学校から社会人への切り替えが十分できていないままに業務に入ると、どうしても働く上で前提となるマナーや職場でのコミュニケーションの取り方の面でうまくいかないことが多く、定着が難しいということがあります。新卒一括採用では新入社員研修を手厚く行いますが、障害者雇用の場合はまだそのような研修がありません。新入社員研修の中にうまく組み入れたり、別途機会を設けたりして、仲間を作りつつ学んでもらえる場を提供していきたいです。
もう一つは、まだ障害者の社員が全くいない部署や受け入れに不安を持つ部署もあるので、新しい受け入れ部署を開拓していくことです。さらには本社だけでなく拠点にも採用を広げたいので、各拠点にある就労支援事業所や特別支援学校を回るといった活動も最近は増やしています。また、人財を紹介していただけるよう、会社を見に来ていただくツアーなども企画しています。これまで本社の人事部中心に障害者雇用やニューロダイバーシティ推進を進めてきましたが、将来的には人事部が主導しなくても、自然に受け入れが進むような状態になるのが理想です。