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D&Iを全社課題に変える
~「トップコミットメントの浸透」
に向けたポイントと
企業事例にみる工夫~

「D&Iを推進する」というトップコミットメントを浸透させるための、制度運用上のポイントや工夫例を、企業事例もふまえて紹介する。

特に今回は、D&I推進部⾨の役割にフォーカスし、「制度運用上のポイント・工夫」をまとめている。

POINT
  • トップコミットメントの浸透には、以下4つの要素からなるプロセスが必要。
  • このプロセスを円滑に進める上では、D&I推進部⾨が経営層と各部⾨‧拠点の役員‧幹部、管理職との間をつなぐ要となる。
  • 具体的には、D&I推進部門が、各部門・拠点等の状況や課題を経営者と共有化した上で、各部門・拠点に働きかけ、PDCAをまわしていくことが重要となる。

D&I推進部門の役割

01

トップコミットメントを表明する機会・手段を検討する。広報等の他部門と協力し発信する。

02

各部門・拠点の声を拾い、現状や課題を整理し経営者に伝える。自社だけでなく、他社の状況等もふまえ、D&I推進方針の経営戦略への落とし込みに向けて、働きかける。

03

各部門・拠点でのD&I推進状況や課題を把握し経営者に伝える。各部門・拠点等での計画策定がなされるよう働きかける。D&I推進計画を立案させるプログラム、各拠点での取り組みのイントラ掲載等で計画策定を支援する。

04

推進計画の進捗状況や各部門・拠点の課題を把握する。各部門・拠点ごとD&I推進担当者の設置するなどの形で適切なフォローを行う。

D&I推進上の課題

  • 会員企業のD&I推進担当者へのヒアリングから、各事業部門がD&I推進を「優先度が低い」「D&I推進部門が取り組むこと」だと理解しており、トップコミットメントを受けても、自部門の課題として取り組みを展開するまでには至らず、「トップコミットメントの浸透」が大きな課題であることが浮かび上がった。

D&I推進に関する現状認識

事業部門
  • 様々な事柄が重要事項としてトップから指示される中、D&I推進の優先度が低い。
  • D&I推進の取り組みの具体化ができない。
D&I推進部門
  • 「D&I推進が重要」という認識は、社員に一般論として広がっているが、D&Iを自部門、拠点に関わる課題として社員が捉え切れておらず、実際の取り組みや成果につながっていない。
  • D&IはD&I推進部門が取り組むことと考えられているケースが多い。

「トップコミットメントの浸透」がD&I推進における大きな課題

トップコミットメントを浸透させる、
4つの要素からなるプロセス

  • 企業の制度・取り組み事例をもとに整理したところ、各社はトップコミットメントの浸透に向け、以下4つの要素からなるプロセスで進めていることが明らかになった。
  • 要素ごとに、ポイントや特徴的な⼯夫点をまとめ、事例とともに紹介する。

「D&Iを推進する」というトップコミットメントが表明され、社内外への広報・周知の取り組みを行う。

D&I推進で目指すべき姿や全社目標、取り組みの方向性等を明確に示す。

経営戦略に位置づけたD&I推進方針を各部門・拠点に展開し、それぞれの推進計画を具体化する。

各部門・拠点が策定した推進計画の進捗状況を適正に評価し、経営者と共有した上で適切なフォローを行う。

要素ごとのポイントと、
企業事例にみる工夫点

制度・取り組みを進める上でのポイント

様々な機会・手段を通じて、企業として本気で取り組む姿勢を伝える

「D&Iを推進する」というトップコミットメントが表明され、社内外への広報・周知の取り組みを行う。文書の発信やホームページ掲載、挨拶等の場面だけでなく、様々な機会・手段を通じて、D&I推進の意義や方針を繰り返し表明することで、経営者の思いや企業として本気で取り組む姿勢を伝える。

企業事例にみる工夫や取り組みの効果

動画配信で経営者の「本気度」を打ち出す

企業事例の中には、教育研修で社員が視聴する動画において、経営者が自身の言葉でD&I推進に関する考え方を語ったり、外部の有識者との対談形式で経営者の本音を引き出す場面を設けることで、経営者の「本気度」を伝える工夫が見られた。

こうした取り組みを通じて、経営者の考え方を直に知ることができ、社員の理解がより深まる。

企業事例
外部著名人と役員による対談動画を配信する「インクルージョンシリーズ」 住友電気工業
  • 多様な人材の能力を活かして成果につなげるチームビルディングやリーダーシップをテーマに外部著名人と役員との対談を複数回実施し、その様子を動画で全社員に配信。
  • 異業種の著名人と役員との本音の議論を通じて経営層の考え方に触れることができ、「自社のD&I推進の方向性に対する納得感や理解が増した」「管理職の行動変容やマネジメント力向上につながった」などの効果がみられた。
トップと講師の対談を入れた男性の育休取得に関するオリジナル教育 京セラ
  • 責任者層を対象に受講を必須とする動画教育を実施。動画の冒頭に社長と講師との対談を入れ、社長から責任者層へのメッセージを発信。
  • 男性育休取得推進に関する責任者の理解促進と育休を取得できる職場環境作りをめざし、トップからのメッセージを講師との対談形式で紹介することで、会社の前向きな姿勢を伝えたいとの考えから実施。
  • 受講者からは、「社長からのメッセージから始まり、強い会社方針を確認でき、丁寧なビデオ説明で重要ポイントを理解できた。」との声があがっている。

制度・取り組みを進める上でのポイント

D&I推進方針を経営戦略に落とし込む

D&I推進で目指すべき姿や全社目標、取り組みの方向性等を明確に示す。D&I推進を重要な経営課題として位置づけ、経営戦略に落とし込む。

企業事例にみる工夫や取り組みの効果

自社の現状や課題を整理する

企業事例の中には、D&I推進の全社方針を策定するため、各部門・拠点へのヒアリングや全社横断のワーキンググループの設置、競合他社の事例参照により、自社の現状や課題を整理する工夫が見られた。

こうした取り組みにより、D&I推進が経営者だけでなく全部門・拠点に関わる課題だという意識が浸透し、社員の理解、納得感が深まる。

企業事例
戦略経営計画「FUSION25」において重点戦略テーマの一つとして「ダイバーシティマネジメントの深化による人材力強化」を位置づけ ダイキン工業
  • 21年度から25年度までの戦略経営計画「FUSION25」を策定。この中で経営基盤強化5テーマの一つとして、「ダイバーシティマネジメントの深化による人材力強化」を設定している。
  • 詳細として、当社の成長・発展の基盤である「人を基軸におく経営」をベースとする企業文化、組織のDNAを、時代の変化に合わせさらに磨きをかけ、グループ全体に徹底・浸透をはかること、世界中で活躍する一人ひとりが、多様な個性、無限の可能性を最大限に発揮し成長できる人事施策を展開することを記載。
  • さらに、2024年、創業100周年を迎えた機会に、これからのさらなる成長発展を支える経営の基本となる考え方として、「グループ経営理念」の見直しを行った。今後、当社グループの経営方針や経営計画は、経営理念に沿って策定される。この経営理念の第6章に「“人を基軸におく経営”を実践し、挑戦するチャンスにあふれ、社員が挑戦・成長し続けられる環境を提供する」「ダイバーシティ経営を推進し、一人ひとりの個性をいかす」と明記された。経営理念に明文化したことにより、経営戦略として一人ひとりの活躍を推進し、組織全体の人材力強化につなげていくのだというトップのゆるぎない意思が改めて発信された。
KIRINが大切にする価値観“One KIRIN Values”に「多様性」を追加し、「女性活躍推進長期計画2030」を策定 キリンホールディングス
  • 「世界のCSV先進企業となる」ことを目指して長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」(KV2027)を策定する際、世界のCSV先進企業となるためのドライバーは「多様性」ではないか、との声が、社員へのヒアリングの中で挙がった。これを受け、経営層とも話し合い、KIRINが大切にする価値観“One KIRIN Values”に「多様性」を追加した。
  • これにより全社的に多様性が重要との理解が浸透した。
  • 経営戦略をふまえ、女性の活躍推進をより一層進めるための戦略として「女性活躍推進長期計画2030」を策定。目指す姿、目標、育成方針、重点課題を掲げる。
  • 目標や方針の明示により、施策の理解が現場の社員に広がる効果がみられた。

制度・取り組みを進める上でのポイント

各部門・拠点が責任をもって推進計画を策定する

経営戦略に位置づけたD&I推進方針を各部門・拠点に展開し、それぞれの推進計画を具体化する。D&I推進方針の実現に向け、各部門・拠点の役員・幹部、管理職が責任をもって、それぞれで取り組むべき重点課題を明らかにし、具体的な目標設定を行う。

企業事例にみる工夫や取り組みの効果

研修や取り組みの横展開を通じ、各部門・拠点での取り組みの具体化を支援する

企業事例の中には、D&I推進の意義の理解を深める役員・管理職研修の一環として、自部門・拠点におけるD&I推進計画を立案させるプログラムを盛り込むほか、各拠点でのD&Iに関する取り組みをイントラに掲載し共有するなどの支援を行う工夫が見られた。

こうした取り組みにより、各部門・拠点の役員・幹部、管理職が、自ら行うべきD&I推進の取り組みを具体化できるよう努めている。

企業事例
役員向けDEIプログラム サントリーホールディングス
  • DEIを経営戦略として捉え、各社・各部署にて推進するために、役員層を対象とした「役員向けDEIプログラム」を導入。
  • このプログラムの中で、自身のリーダーシップ、コンピテンシー、バイアスを理解する「アセスメント」をもとにインクルーシブ・リーダーシップの発揮や自部署のDEI推進プランを検討し、グループディスカッションを経て、実行に繋げている。
  • 当プログラムが、部門個別のDEI課題を検討するきっかけとなり、部門個別のDEI課題に取り組むきっかけとなっている。
各拠点での取り組みの社内イントラでの発信 京セラ
  • 工場・事業所などの各拠点ごとのDEI推進活動や課題解決の取り組みをイントラ内に掲載、他拠点へ事例の横展開を図ることにより、全社的な課題解決につなげることを目的に実施。
  • 各拠点に設置されているDEI推進委員をはじめ全社員が閲覧できる。
  • 例えば、育児・介護等の制度を利用する両立社員の事例共有、拠点内で実施した座談会等の取り組み紹介などを行っている。また、定期的に拠点同士のオンライン情報交換会を実施し、各拠点の活動の考えや方針、取り組みを共有し合っている。
  • 他拠点での取り組みを参照することで「自分の職場でも新たなアイデアを取り入れられた。」「スムーズに問題解決が進んだ。」などの声があり、自主的なDEI推進活動の活発化、拠点間の交流促進などの効果がみられた。

制度・取り組みを進める上でのポイント

各部門・拠点の課題にふみ込んでフォローする

各部門・拠点が策定した推進計画の進捗状況を適正に評価し、経営者と共有した上で適切なフォローを行う。各部門・拠点へのヒアリングを通じて計画推進上の課題を把握する、各部門・拠点と共に課題解決に向けた方策を検討するなど、一歩ふみ込んだ形で、計画の進捗評価とフォローを行う。

業事例にみる工夫や取り組みの効果

各部門・拠点ごとにD&I推進担当者を設置する

企業事例の中には、部門・拠点ごとにD&I推進担当者を設置。定期的なヒアリングを通じて各部門・拠点の状況を的確に把握するとともに、組織の特性に応じた勉強会やディスカッションの機会を企画・運営し、課題解決の主体的な取り組みを推進する工夫が見られた。

こうした取り組みを通じて各部門・拠点でのD&I推進計画の進捗を確実にフォローアップする体制を構築している。

企業事例
DE&I推進担当者を組織毎に設置 東京海上日動火災保険
  • 全社のDE&I推進を一層加速させるため、また自組織の状況に合わせた学びの共有やイベントの周知、部内勉強会等を実施し、社員一人ひとりが当事者意識をもってDE&I推進に取り組む環境をつくるため、全国の部支店に1名ずつ、DE&I推進担当者を設置。
  • 2024年度は約200名を任命。
  • DE&I推進担当者は、社内で開催されるDE&Iに関わるイベントの組織内への周知や内容の共有とともに、DE&I推進担当者の裁量での組織ごとの勉強会およびディスカッションの場の設定等、自組織の社員のDE&I理解度を高めるため独自のアクションを実施している。
  • DE&I推進担当者に任命された社員が、自分ごととしてDE&Iを理解し行動することで、全社一律の取り組みではなく、各組織の状況に即した施策を実行することができる、などの効果が見られる。
各地域ごとのDE&I担当者やDE&Iカウンシルの設置 アシックス
  • アシックスグループでは、グローバルで一丸となってDE&Iを推進している。2020年に策定した「DE&Iビジョン」の実現に向け、日本やアメリカ、韓国など各地域ごとにDE&I担当者やDE&Iカウンシルを置き、アクションプランを策定。従業員の状況、ニーズを把握し、地域の状況に合わせた形でDE&Iを推進。
  • 地域の状況に合わせた取り組みにより、2023年にグローバル全体で女性管理職比率を35%にするという目標を掲げ、2022年に38.3%と前倒しで達成した。

本ページは、「D&I推進検討チーム」での議論をふまえ、作成したものである。

D&I推進検討チーム

アドバイザー

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 政策研究事業本部 執行役員
チーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(CDIO) 主席研究員
矢島 洋子

メンバー(順不同)

川崎重工業株式会社(主査)
岩谷産業株式会社
関西電力株式会社
住友電気工業株式会社
レンゴー株式会社
積水ハウス株式会社
東洋紡株式会社
西日本旅客鉄道株式会社
NTT西日本株式会社
日本生命保険相互会社
上新電機株式会社