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会長コメント 2006

第44回定時総会挨拶

2006/05/23 1.日本・関西経済の現状と課題

 定時総会の開会にあたり、一言ご挨拶を申し上げます。本日は、皆様ご多忙のところ、ご出席を賜りまして誠に有り難うございます。
 さて、この一年を振り返りますと、日本経済は一貫して順調な拡大を続けてきた年であったと言えます。中でも関西は、長年の低迷から脱して工場の域内回帰の動きが拡がったほか、消費が好調に推移したことによって、力強い回復を遂げてまいりました。
しかしながら、足元の景気を見ると、こうした好調さにやや陰りの兆しもあり、決して楽観視できる状況にはありません。むしろ我々は、持続的な経済拡大の妨げとなりかねない重大なリスクに直面していることを直視しなければならないと思います。
 一つめのリスクは、日本あるいは日本人を取り巻く環境に係わる「外的リスク」であります。これについては、米国経済の失速や中国との政治的摩擦の激化、石油価格の高騰などのリスクが考えられます。
 もう一つのリスクは、企業の相次ぐ不祥事や凶悪な犯罪の急増に見られるように、日本と日本人の内面に重大な変化が起こっていることによる、言わば「内的リスク」であります。
この「内的リスク」は、日本人の心の基盤を形づくっている精神的な強みや特性を喪失させ、「外的リスク」よりもはるかに社会の発展力を阻害してしまうものであります。
 歴史を振り返っても、いくつかの国家が、この「内的リスク」の顕在化によって衰退の途をたどってきました。
 ローマ帝国は、市民の強い団結心と旺盛な社会改革意識を原動力として、史上まれに見る巨大な国家へと発展しました。しかしながら、人々が次第に享楽的で 刹那的な生活に溺れるようになり、社会全体から活力や自発性が失われたことが強みの喪失、衰退につながったといわれています。
 また大英帝国もかつては、大航海時代から産業革命にいたるまで飽くなき挑戦精神で世界市場を席巻(せっけん)してきました。しかしながら、人々が植民地 や既存産業に頼った生活に安住するようになり、新しい産業を生み出す探究心やイノベーション力を失ったため、いわゆる「英国病」に陥ってしまいました。



2.日本人が直面しつつある危機

 現在、日本の経済は見かけ上、顕著に回復しておりますが、われわれ日本と日本人にもこうした「内的リスク」が顕れてきているのではないでしょうか。具体 的には、日本人が近代化以降、自分の強みとしてきた「相互信頼」と「創造的努力」という二つの「こころ」が、日本人の内部の変質によって失われてきている ように思われます。

(1)相互信頼
 これまで日本と日本人が歩んできた繁栄の歴史の多くは、一人ひとり、あるいは個と集団の間の「相互信頼」が原動力となってきました。豊かな農耕社会や江 戸期の商人たちの高度な商品経済、近代化以降の日本的経営の成功は、すべて社会的な信頼のネットワークの上に結実したものと言っても過言ではありません。
 しかしながら、90年代以降、市場主義やアングロサクソン型資本主義の流れが強まる中で、この日本人特有の「相互信頼」のネットワークが、その無警戒さの虚をつかれ、もろくも崩れ去ったように思われます。
 そのため、違法な手段によって株価操作を行ない大衆の目を欺いたり、企業が営々と築き上げてきた価値を投機の目的で収奪したりする者が現れてきていま す。このように「相互信頼」が失われ、「欺瞞」や「偽善」を行ったものが勝者となり、社会全体に儒教で言う「仁」、すなわち、他者を思いやる心がなくなる ため、わが国の発展力が大きく損なわれてしまいます。
 今こそ、これまで日本人にとって空気のように「当たり前のもの」と思っていた社会的相互信頼のネットワークを自分たちの強みの源泉として再構築しなければなりません。

(2)創造的努力
 また、「相互信頼」と並んで日本人の優れた特質であり、わが国の強みとなってきた、新しいものを創造するために真摯に努力する精神も近年は危機に瀕していると言えます。
それは、企業も個人も短期的な経済利益ばかりを追い求め、金銭的な尺度だけで価値判断を行なうような風潮が蔓延してきたためではないでしょうか。かつて マックス・ウェーバーは、資本主義を育んだ大切な要素として、人々が自らの職業を神に与えられた「天職」と考え、それに身を捧げてきた精神性の存在を指摘 しました。こうしたひたむきさや勤勉さ、さらに、その上に立って新たなものを創り出す意欲が、今の日本社会から失われてきているように思われます。
 目下の日本経済にとって最大の課題は、潜在成長力を引き上げ、財政制約を跳ね返す成長を遂げることであることは言うまでもありません。その鍵を握るの は、経済・社会の様々な場での「イノベーション・パワー」の積み重ねであり、こうした「創造的努力」を支える「こころ」を日本人が取り戻さない限り、経済 的な成功も決して望めないのではないでしょうか。



3.日本・関西が今、なすべきこと

 わが国は今や、こうした「相互信頼」と「創造的努力」の再生という、日本人の言わば「こころの改革」を進めることが急務となってきております。この「こ ころの改革」をしっかりと進めることができれば、わが国が現在、抱えている困難な課題についても必ずや解決の糸口を見いだすことができると思います。
 まず、企業がどうあるべきか考えるうえでも、株主だけでなく顧客や地域、従業員など様々なステークホルダーとも、強い信頼関係を築くことが重要であるこ とは言うまでもありません。そのうえで、企業の本分であるイノベーションに真摯に取り組み、新たな価値を社会に提供し続けることが企業の本分であると確信 します。
 また、地域の競争力についても、ただ経済力や産業力を強める施策を推し進めるだけではなく、その根幹にあるチームワークや信頼の絆、地域を思う心などを育む改革を進めつつ「創造的努力」のこころを再生していくことこそが、真の競争力向上につながるのではないでしょうか。
 さらに近年、悪化が指摘されるアジア外交についても、大乗仏教が説く、他を思いやる心、すなわち「自利利他」の精神があれば、強い信頼の絆を築くことも 可能だと思います。加えて、異文化の交流を通じて、新しい価値をともに生み出すことを外交の基礎とすることによって、一つの共同体のような親密な関係を築 くことも決して夢ではありません。



4.今年度の関経連の活動

 こうした点を踏まえて、今年度の関経連は、言わば地域経済と企業経営の「こころの改革」を推し進めながら、競争力の根幹を鍛えなおすとともに、日本全体に改革の大きなうねりを生み出す存在となっていきたいと思います。
 具体的には、まず、日本人本来のこころの原点に立ち返って、「新しい国、地域、企業の姿」を提案しなければなりません。そこで、今年度は「関西企業価値 研究会」を設置して、企業のあるべき姿、信条にまで踏み込んだ新たな経営モデルを創り上げ、その実現に向けた具体的なアクションプランを策定します。ま た、地域や国の姿を含めた今後あるべきわが国の発展像についても、関西から積極的に発信・提言してまいります。
 次に、企業や個人が、新たな価値創造に向けて惜しみない努力を行う上では、人々の「こころの改革」を引き出し、地域においてその「場」となるものを創り 出さねばなりません。そのためのイノベーション促進策として、バイオやロボットなど先端産業の振興や既存産業を含む異分野同士の融合を行なうとともに、拠 点となるナレッジ・キャピタルを含む北梅田地区の整備を着実に進めてまいります。
 また、関西における「こころの改革」の重要な要素として、地域の魅力を高め、人々の心の拠り所を創らねばなりません。そのため、魅力ある街と地域の実現 に向けて、地域の精神的バックボーンである関西固有の伝統文化の振興、関西の価値を高める観光産業の育成、関空2期事業をはじめとするネットワーク機能の 強化等の取り組みを加速していきたいと思います。
 さらに、海外諸国との間にも、経済交流・企業連携を進めることによって、信頼の輪を世界へと拡げねばなりません。とりわけ、関西地域の発展の鍵を握るア ジア地域との交流・連携強化については、関西がアジア域内、そして他地域との結節点となって、アジア新時代をリードできるよう、戦略的な取り組みを進めて いきたいと考えています。



5.むすび

 以上、今年度の関経連の活動について概略をご説明いたしました。特に、今年度は、わが国が直面する「内的リスク」に対処するために、人々の精神面にまで立ち返って競争力の根本改革を進めてまいりたいと思います。
 かつてフランスの啓蒙思想家ルソーは、「生きるとは呼吸することではない。行動することだ」と述べました。私どもも、関西地域や企業経営のあるべき姿を早期に実現するために、各種施策を積極的に実践してまいりたいと思います。  会員の皆様に今後一層のご支援・ご協力をお願い申し上げて、私の挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。


以上


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